魔法の手
拍手&コメントありがとうございます。
今回も「魔法の手」の続きになります。ちょっと遅すぎな感もありますが、薔薇の系図を。
紅薔薇 水野蓉子 小笠原祥子
白薔薇 佐藤聖 久保栞 藤堂志摩子
黄薔薇 鳥居江利子
令、由コンビがいないので白薔薇に久保栞を入れてみました。と言ってもほとんど空気なので別に問題ないかと。
例えば江利子が令に出会っていなかったら、
例えば祥子が祐巳のタイを直していなかったら、
そして、江利子と祐巳が出会ってしまったら、
そんな話。
今回も「魔法の手」の続きになります。ちょっと遅すぎな感もありますが、薔薇の系図を。
紅薔薇 水野蓉子 小笠原祥子
白薔薇 佐藤聖 久保栞 藤堂志摩子
黄薔薇 鳥居江利子
令、由コンビがいないので白薔薇に久保栞を入れてみました。と言ってもほとんど空気なので別に問題ないかと。
例えば江利子が令に出会っていなかったら、
例えば祥子が祐巳のタイを直していなかったら、
そして、江利子と祐巳が出会ってしまったら、
そんな話。
先生に呼び出されて、薔薇の館に行くのが遅れてしまった。今日祥子に王子役が聖でなく柏木だということが告げられる予定になっていたから出来るだけ早く薔薇の館に行きたかったのに、これじゃもう全部終わってる頃かな、残念に思いながらもビスケット扉を開けた。
「ごめん遅くなった」
「いいわよ」
薔薇の館は重い雰囲気に包まれていた。そこまでは予想の範囲内だったのだが、なぜかその輪の中に祐巳が座っていた。
「どうしたの?」
祐巳に問いかけたはずの言葉だったが、その問いを答えたのは蓉子だった。
「祥子が王子役をやるのを嫌がって、私が妹もいない子に発言権はないと言ったら飛び出していってその子を妹にするなんて言い出したのよ」
「嘘でしょ?」
苛立ちを隠すこともしないで声を上げる。
一体どういうことなんだろうか。
今朝の事情を知っている人間と知っていそうな人間がいて、なぜそんな結果になったのか。もっとも私も祐巳にスールの約束をしたわけではなかったが。
「いえ、本当よ」
蓉子には私が祐巳にスールの申し込みをしたことを話していない。どうせならもっと早くに話しておくべきだった。
「ちょっと待ってよ。そういうことじゃなくて。私もこの子に今日の朝スールの申し込みをしたんだけど」
座っていた一同が一斉に私のほうへと向いた。そんなにおかしなことを言ったつもりはなかったのだが。
「どういうこと?」
聖が立ち上がって信じられないという顔で聞く。
「そのままの意味よ」
「江利子が、そう。へー」
聖は驚いていたが納得したように頷いて、椅子に座った。
「初耳だけど」
今度は蓉子がこめかみを押さえて聞く。
「初めて言ったから」
さも当たり前のように答えると、蓉子は深い溜め息をついた。苦労してるな、と他人事ながら思った。もちろんその苦労をさせているのは聖と私なわけなのだけど、もちろん改善する気などさらさらないわけだ。
「ややこしくなったわね、祥子。どうやら祐巳ちゃんは先に江利子にスールの申し出を受けていたらしいわね」
祥子は動揺しているみたいだった。
大方、その辺で見つけた子を連れてきて自分のスールだということを宣言してしまっていたのだろう。
「そっ、それでも私は祐巳のスールです」
「私もあきらめる気はないけど」
祐巳は私たちに板ばさみにされてオロオロとしていた。蓉子の言葉にほっとさせてはまた青くして、まるで百面相だ。
「二人とも大事なことを忘れているんじゃないでしょうか」
そう立ち上がったのは聖の妹の栞だった。
栞と聖がスールになった時も、紆余曲折あったのだけど今は省略しておこう。
「祐巳さんのお気持ちはどうなるんですか? 二人ともちゃんと返事をもらったわけではないんでしょう?」
私は頷く。
この展開は私にとって不利だった。今朝の仕草を見ていればどう考えても断られるのは目に見えていたし、祐巳は祥子のファンみたいだったから。
「祐巳さんはどう思ってるんです?」
栞に振られて祐巳は立ち上がった。
「その……」
こんなことになるとは思っていなかったのだろう。困った顔を浮かべて、曖昧にぼかしていた。
「はっきり言いなさい!」
昔の自分を見ているみたいで嫌だったのか、祥子がそんな祐巳を怒鳴ると肩を震わせてようやく喋りだした。
「私は祥子様、江利子様のどちらのスールにもなれません」
まさか二人同時で撃沈されるなんて思っていなかったのか、祥子は呆然としていた。
「どうしてって理由聞いてもいいかな?」
私が問うと祐巳はゆっくり話し始めた。
「祥子様はずっと昔から憧れていました。でもだからと言ってスールになりたいとかそういうわけではないと思うんです。江利子様は……」
「正直にどうぞ。別に怒ったりしないから」
「えっと、今朝お会いするまでお顔も知らなくて、スールとかそういうことを考えたことすらないというか、なんというか」
祐巳の答えに笑い声を上げたのは聖だった。館の一同が不思議そうに聖を見つめている中、立ち直った聖がようやく一言発した。
「江利子が祐巳ちゃんを選んだ理由なんだかよく分かった気がする」
「そうね。でも少し正直すぎたかもね」
蓉子もそう聖に同意し、祐巳は顔を真っ赤に染めていた。
「でも、今朝会うまで知らなかったからっていうなら、もう少し私のことを知ってもらえばスールになれる可能性があるわけじゃない?」
「えっ」
祐巳は驚いて顔を上げる。
それで断ったつもりでいるなら、大間違いということだ。私が掴んだ獲物を放さないことはスッポン以上と定評がある。もっともそんなことを言ってるのは聖だけなのだけど。
「どうなの?」
「それは、そうかもしれません」
「なら」
「待ってください」
チャンスを頂戴と言おうとした私を遮って声を上げたのは祥子だった。
「私も祐巳のことをあきらめたわけじゃありません」
その言葉に一番驚いていたのは祐巳だけど、誰もがそう思っていたはずだ。ただシンデレラ役を降りたいための妹じゃなかったのかと。
「二人とも諦めきれないんじゃしょうがない。賭けしょうましょう」
「賭けですか?」
「そう。祥子は祐巳ちゃんを文化祭までに妹に出来ればシンデレラを降りていい。もしできたらシンデレラは江利子がやる。出来なかった場合は祥子がやる」
「その賭けは私に一体何のメリットが?」
聞いたのは祐巳だった。
当たり前といったら当たり前の疑問。ついでに言うなら私も何の得もしないような賭けだった。
「そうね。みんなが憧れる山百合会のお姉さまとお近づきになれるチャンスってのはどう? どっちにしろ江利子はしつこいわよ。期間を設けた方が祐巳ちゃんにとってもいいと思うけど? 江利子の場合はこっちの方が面白いでしょ?」
私の性格を知り尽くしている親友はそうウインクをした。今どきウインクが様になる人間なんて外人顔の聖くらいなもんだろう。
「その条件飲みましょう」
そうして私と祥子のどちらかが先に祐巳を落とすか、そんな勝負が始まりを告げるのだった。
追記 系図の紅薔薇が赤薔薇になっているということで訂正しました。指摘してくれた方ありがとうございます(´▽`)
「ごめん遅くなった」
「いいわよ」
薔薇の館は重い雰囲気に包まれていた。そこまでは予想の範囲内だったのだが、なぜかその輪の中に祐巳が座っていた。
「どうしたの?」
祐巳に問いかけたはずの言葉だったが、その問いを答えたのは蓉子だった。
「祥子が王子役をやるのを嫌がって、私が妹もいない子に発言権はないと言ったら飛び出していってその子を妹にするなんて言い出したのよ」
「嘘でしょ?」
苛立ちを隠すこともしないで声を上げる。
一体どういうことなんだろうか。
今朝の事情を知っている人間と知っていそうな人間がいて、なぜそんな結果になったのか。もっとも私も祐巳にスールの約束をしたわけではなかったが。
「いえ、本当よ」
蓉子には私が祐巳にスールの申し込みをしたことを話していない。どうせならもっと早くに話しておくべきだった。
「ちょっと待ってよ。そういうことじゃなくて。私もこの子に今日の朝スールの申し込みをしたんだけど」
座っていた一同が一斉に私のほうへと向いた。そんなにおかしなことを言ったつもりはなかったのだが。
「どういうこと?」
聖が立ち上がって信じられないという顔で聞く。
「そのままの意味よ」
「江利子が、そう。へー」
聖は驚いていたが納得したように頷いて、椅子に座った。
「初耳だけど」
今度は蓉子がこめかみを押さえて聞く。
「初めて言ったから」
さも当たり前のように答えると、蓉子は深い溜め息をついた。苦労してるな、と他人事ながら思った。もちろんその苦労をさせているのは聖と私なわけなのだけど、もちろん改善する気などさらさらないわけだ。
「ややこしくなったわね、祥子。どうやら祐巳ちゃんは先に江利子にスールの申し出を受けていたらしいわね」
祥子は動揺しているみたいだった。
大方、その辺で見つけた子を連れてきて自分のスールだということを宣言してしまっていたのだろう。
「そっ、それでも私は祐巳のスールです」
「私もあきらめる気はないけど」
祐巳は私たちに板ばさみにされてオロオロとしていた。蓉子の言葉にほっとさせてはまた青くして、まるで百面相だ。
「二人とも大事なことを忘れているんじゃないでしょうか」
そう立ち上がったのは聖の妹の栞だった。
栞と聖がスールになった時も、紆余曲折あったのだけど今は省略しておこう。
「祐巳さんのお気持ちはどうなるんですか? 二人ともちゃんと返事をもらったわけではないんでしょう?」
私は頷く。
この展開は私にとって不利だった。今朝の仕草を見ていればどう考えても断られるのは目に見えていたし、祐巳は祥子のファンみたいだったから。
「祐巳さんはどう思ってるんです?」
栞に振られて祐巳は立ち上がった。
「その……」
こんなことになるとは思っていなかったのだろう。困った顔を浮かべて、曖昧にぼかしていた。
「はっきり言いなさい!」
昔の自分を見ているみたいで嫌だったのか、祥子がそんな祐巳を怒鳴ると肩を震わせてようやく喋りだした。
「私は祥子様、江利子様のどちらのスールにもなれません」
まさか二人同時で撃沈されるなんて思っていなかったのか、祥子は呆然としていた。
「どうしてって理由聞いてもいいかな?」
私が問うと祐巳はゆっくり話し始めた。
「祥子様はずっと昔から憧れていました。でもだからと言ってスールになりたいとかそういうわけではないと思うんです。江利子様は……」
「正直にどうぞ。別に怒ったりしないから」
「えっと、今朝お会いするまでお顔も知らなくて、スールとかそういうことを考えたことすらないというか、なんというか」
祐巳の答えに笑い声を上げたのは聖だった。館の一同が不思議そうに聖を見つめている中、立ち直った聖がようやく一言発した。
「江利子が祐巳ちゃんを選んだ理由なんだかよく分かった気がする」
「そうね。でも少し正直すぎたかもね」
蓉子もそう聖に同意し、祐巳は顔を真っ赤に染めていた。
「でも、今朝会うまで知らなかったからっていうなら、もう少し私のことを知ってもらえばスールになれる可能性があるわけじゃない?」
「えっ」
祐巳は驚いて顔を上げる。
それで断ったつもりでいるなら、大間違いということだ。私が掴んだ獲物を放さないことはスッポン以上と定評がある。もっともそんなことを言ってるのは聖だけなのだけど。
「どうなの?」
「それは、そうかもしれません」
「なら」
「待ってください」
チャンスを頂戴と言おうとした私を遮って声を上げたのは祥子だった。
「私も祐巳のことをあきらめたわけじゃありません」
その言葉に一番驚いていたのは祐巳だけど、誰もがそう思っていたはずだ。ただシンデレラ役を降りたいための妹じゃなかったのかと。
「二人とも諦めきれないんじゃしょうがない。賭けしょうましょう」
「賭けですか?」
「そう。祥子は祐巳ちゃんを文化祭までに妹に出来ればシンデレラを降りていい。もしできたらシンデレラは江利子がやる。出来なかった場合は祥子がやる」
「その賭けは私に一体何のメリットが?」
聞いたのは祐巳だった。
当たり前といったら当たり前の疑問。ついでに言うなら私も何の得もしないような賭けだった。
「そうね。みんなが憧れる山百合会のお姉さまとお近づきになれるチャンスってのはどう? どっちにしろ江利子はしつこいわよ。期間を設けた方が祐巳ちゃんにとってもいいと思うけど? 江利子の場合はこっちの方が面白いでしょ?」
私の性格を知り尽くしている親友はそうウインクをした。今どきウインクが様になる人間なんて外人顔の聖くらいなもんだろう。
「その条件飲みましょう」
そうして私と祥子のどちらかが先に祐巳を落とすか、そんな勝負が始まりを告げるのだった。
追記 系図の紅薔薇が赤薔薇になっているということで訂正しました。指摘してくれた方ありがとうございます(´▽`)
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