名前とはいかにして
お久しぶりです。
新刊発売記念ということで。
ちなみに新刊はまだ読んでいないのでこの設定はもしかしたら覆されるかもしれません。
薔薇の館のテーブルを囲み頭を抱える祐巳と志摩子と由乃の三人。薔薇さまになってから、随分と経った頃に起こった事件――と言えば大袈裟に聞こえるかもしれないが、これはまさに由々しき事態だった。
「ねえ、二人とも」
「どうしたの、由乃さん」
「そういえば私たちっていつになったら呼び捨てで呼び合えるようになるのかな?」
「そういうのには自然の流れがあるんじゃないの」
とは祐巳の弁。
「そうだけど、自然の流れに身を任せたままだと大学生になってもさん付けで呼び合って居そうじゃない?」
「それはどうかしら?」
首を傾げる志摩子さん。
「だから、この際さ呼び捨てで呼んでみよう期間とか作って呼び合ってみない?」
由乃は提案した。
この状況を打破する方法は無理やりにでも呼び捨てで呼び合う以外に方法がなかったからだ。どうせこのままだと誰も今の現状に意義を唱えることなく学園生活を終えそうで、それだと先代薔薇さまや先々代薔薇さまのような関係に近づく機会が訪れなくなってしまう。
「そんなことやるの? 私は今のままでいいと思うけどな」
「甘い! 甘いよ、祐巳」
「あら、もう始まってるのかしら」
「この際諦めよう? 由乃がこうなってしまったら私たちだけじゃ止められない。奈々ちゃんがいないと」
「そうね。由乃の気が済むまで付き合ってあげましょうか」
「だね」
志摩子は紅茶の残りを飲んで頷いた。祐巳はというと相変わらず締まらない顔でにへらと笑って頷いている。
「じゃあ開始ね。ちなみにさん付けで呼んだ場合には罰ゲームあるから、そのつもりで」
「えー罰ゲームあるの?」
「もちのろんよ。罰もなしにぬるいことやってたら浸透しないでしょ」
「親密を深めるためじゃなかったのかしら?」
「親密を深めるためだからこそ、心を鬼にしてやらなきゃいけないのよ、志摩子」
「ところでいちいち語尾に名前つけるの物凄い不自然だと思うよ、由乃」
「だってそうしないと、名前なんてそんなに呼ばないじゃない」
「だから無理やりやらなくても」
「しゃーらっぷ。祐巳はそんなこと言ってるから狸顔だって言われるのよ」
「狸顔は関係ないでしょ? どうせ私は締まりのない顔ですよ」
「私、狸好きよ」
のんびりとした口調で的外れな感想を志摩子が述べる。そんなボケに律儀に突っ込みを入れるのはやはり由乃だった。
「今そういう話じゃないから、志摩子」
ボケ要因が二人に突込みが一人、その突っ込みすらたまに暴走するのだからなかなかこの三人をまとめようとするのは大変である。
「でもなんかむず痒いよね、こうやって互いのことを呼び捨てするのって」
「そうね。でも私はいつかこうやって呼び合えればいいなとは思っていたのよ?」
「あー、私も」
そんな二人の様子を由乃は仲間はずれにされているような疎外感を感じながら眺めていた。
「何よ! 二人ともそうやって」
突然、大声を出した由乃に驚いて祐巳と志摩子は振り向くが由乃は机に両手をついて、震えていた。
「どうしたの?」
「由乃さん?」
何事かと二人は心配になって声をかけるが、今度は突然顔を上げると志摩子のことを指差して勝ち誇ったかのように宣言した。
「志摩子さん、今私のことさん付けにしたわね」
「そういう由乃さんだって」
そう忠告する祐巳を驚いた表情で志摩子が眺めていた。
「祐巳さん」
「あっ」
気づいたように口を押さえるが時すでに遅し。
最早、誰もルールを忘れたかのようにもとの呼び方に戻っていたのだった。
「罰ゲームは祐巳ね」
何もなかったとでも言うように由乃は祐巳に告げる。祐巳は「えー」と不服そうに不満声をあげるのだった。
「ちなみに罰ゲームは志摩子さんのことをこれから一週間、シマシマって呼ぶこと。薔薇の館以外でもやらなきゃ駄目だからね」
「えー。シマシマってなんかセンスないよ」
「やるの! いい?」
渋々、祐巳は頷く。
どうせ断り続けたところで由乃が折れないことを知っているからだった。絶対に勝てない勝負なら早めに終わらせた方が良いと中国の偉い人も言っていた。
「シマシマ」
「なあに? ユミユミ」
「うわぁ、八十年代の香りがする」
「ふふ、そうかしら。私は好きよ」
二人で話し始めた祐巳と志摩子を見ていると由乃は再び疎外された気持ちになってくるのだった。
「ちょっと私もヨシヨシって呼んでよ」
「それは嫌」
「ヨシヨシはどうかしら?」
由乃の必死の提案もただ一言で却下されてしまうのだった。うーと唸り声を上げる由乃は「祐巳さんと志摩子さんなんて所詮、妹に妹を取られた残り物の癖にー」と訳の分からない捨て台詞を吐いて薔薇の館を去っていった。
新刊発売記念ということで。
ちなみに新刊はまだ読んでいないのでこの設定はもしかしたら覆されるかもしれません。
薔薇の館のテーブルを囲み頭を抱える祐巳と志摩子と由乃の三人。薔薇さまになってから、随分と経った頃に起こった事件――と言えば大袈裟に聞こえるかもしれないが、これはまさに由々しき事態だった。
「ねえ、二人とも」
「どうしたの、由乃さん」
「そういえば私たちっていつになったら呼び捨てで呼び合えるようになるのかな?」
「そういうのには自然の流れがあるんじゃないの」
とは祐巳の弁。
「そうだけど、自然の流れに身を任せたままだと大学生になってもさん付けで呼び合って居そうじゃない?」
「それはどうかしら?」
首を傾げる志摩子さん。
「だから、この際さ呼び捨てで呼んでみよう期間とか作って呼び合ってみない?」
由乃は提案した。
この状況を打破する方法は無理やりにでも呼び捨てで呼び合う以外に方法がなかったからだ。どうせこのままだと誰も今の現状に意義を唱えることなく学園生活を終えそうで、それだと先代薔薇さまや先々代薔薇さまのような関係に近づく機会が訪れなくなってしまう。
「そんなことやるの? 私は今のままでいいと思うけどな」
「甘い! 甘いよ、祐巳」
「あら、もう始まってるのかしら」
「この際諦めよう? 由乃がこうなってしまったら私たちだけじゃ止められない。奈々ちゃんがいないと」
「そうね。由乃の気が済むまで付き合ってあげましょうか」
「だね」
志摩子は紅茶の残りを飲んで頷いた。祐巳はというと相変わらず締まらない顔でにへらと笑って頷いている。
「じゃあ開始ね。ちなみにさん付けで呼んだ場合には罰ゲームあるから、そのつもりで」
「えー罰ゲームあるの?」
「もちのろんよ。罰もなしにぬるいことやってたら浸透しないでしょ」
「親密を深めるためじゃなかったのかしら?」
「親密を深めるためだからこそ、心を鬼にしてやらなきゃいけないのよ、志摩子」
「ところでいちいち語尾に名前つけるの物凄い不自然だと思うよ、由乃」
「だってそうしないと、名前なんてそんなに呼ばないじゃない」
「だから無理やりやらなくても」
「しゃーらっぷ。祐巳はそんなこと言ってるから狸顔だって言われるのよ」
「狸顔は関係ないでしょ? どうせ私は締まりのない顔ですよ」
「私、狸好きよ」
のんびりとした口調で的外れな感想を志摩子が述べる。そんなボケに律儀に突っ込みを入れるのはやはり由乃だった。
「今そういう話じゃないから、志摩子」
ボケ要因が二人に突込みが一人、その突っ込みすらたまに暴走するのだからなかなかこの三人をまとめようとするのは大変である。
「でもなんかむず痒いよね、こうやって互いのことを呼び捨てするのって」
「そうね。でも私はいつかこうやって呼び合えればいいなとは思っていたのよ?」
「あー、私も」
そんな二人の様子を由乃は仲間はずれにされているような疎外感を感じながら眺めていた。
「何よ! 二人ともそうやって」
突然、大声を出した由乃に驚いて祐巳と志摩子は振り向くが由乃は机に両手をついて、震えていた。
「どうしたの?」
「由乃さん?」
何事かと二人は心配になって声をかけるが、今度は突然顔を上げると志摩子のことを指差して勝ち誇ったかのように宣言した。
「志摩子さん、今私のことさん付けにしたわね」
「そういう由乃さんだって」
そう忠告する祐巳を驚いた表情で志摩子が眺めていた。
「祐巳さん」
「あっ」
気づいたように口を押さえるが時すでに遅し。
最早、誰もルールを忘れたかのようにもとの呼び方に戻っていたのだった。
「罰ゲームは祐巳ね」
何もなかったとでも言うように由乃は祐巳に告げる。祐巳は「えー」と不服そうに不満声をあげるのだった。
「ちなみに罰ゲームは志摩子さんのことをこれから一週間、シマシマって呼ぶこと。薔薇の館以外でもやらなきゃ駄目だからね」
「えー。シマシマってなんかセンスないよ」
「やるの! いい?」
渋々、祐巳は頷く。
どうせ断り続けたところで由乃が折れないことを知っているからだった。絶対に勝てない勝負なら早めに終わらせた方が良いと中国の偉い人も言っていた。
「シマシマ」
「なあに? ユミユミ」
「うわぁ、八十年代の香りがする」
「ふふ、そうかしら。私は好きよ」
二人で話し始めた祐巳と志摩子を見ていると由乃は再び疎外された気持ちになってくるのだった。
「ちょっと私もヨシヨシって呼んでよ」
「それは嫌」
「ヨシヨシはどうかしら?」
由乃の必死の提案もただ一言で却下されてしまうのだった。うーと唸り声を上げる由乃は「祐巳さんと志摩子さんなんて所詮、妹に妹を取られた残り物の癖にー」と訳の分からない捨て台詞を吐いて薔薇の館を去っていった。
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