二条乃梨子はさも踊る
一週間くらい前に書いた前半部分につけたして、もう何が書きたかったんだか分からなくなってしまった話。一応乗っけます。
前半と後半のノリが違うのは多分気のせい。一週間前は確か悲恋にしようとしたいたはずだったんだけどな。
前半と後半のノリが違うのは多分気のせい。一週間前は確か悲恋にしようとしたいたはずだったんだけどな。
B級アクション映画で拳銃片手に踊れ踊れと雑魚キャラの足元を打つ悪者が姿を見せなくなって久しい。子どもながらそれはないだろうとどこか達観した視点でそんな映画を見ていたことを私は覚えている。でもその陳腐さに心惹かれていたのも、また事実だった。
悪者がただ悪者として存在している世界に。
正義が絶対と語られる世界に。
私はどこか羨望に似た気持ちを抱いていたのだった。
「乃梨子ちゃんはいい子だよね」
絶対正義がないこの世界は、同じく絶対悪もまた存在しない。ライダーのためのショッカーが存在しないように、天使のための悪魔が存在しないように、私のための祐巳さまもまた存在しないのだ。
「私がですか?」
「うん」
乃梨子ちゃんは良い子だと笑う祐巳さまがどこか遠くに感じられた。私は貴女に良い子と思われたいわけじゃないんです。
世界に境界線を引いて二分できればどんなに楽だろう。
正義と悪。
好きと嫌い。
残念ながら世界は私が思っているほど単純じゃなくて、そんな線は引いたところで何の意味もなさなかった。
世界は実に曖昧で。
だけど私は思う。
曖昧さは時に人を傷つけるということを。
天使じゃないなら悪魔になってください。
好きじゃないなら嫌いといってください。
それができないのならせめて私の気持ちに整理をつけさせてください。
「のーりこちゃん」
そうやって優しく接されたらあきらめることすらできません。
私の気持ちを知らない祐巳さまは私を後ろから羽交い絞めにする。
その腕に抱かれながら祐巳さまの暖かさを感じていると、その暖かさはまるで銃弾のように私の心に突き刺さるのだ。
私はステップを踏んで交わす。
右に、
左に、
それはさながらB級アクションの雑魚キャラのようで。
「ぼーっとしてたよ」
「すいません、少し考え事を」
「そう? ならいいけど」
名残も残さぬままに祐巳さまは私から離れてしまう。抱きついてみたのは聖さまが祐巳さまにそうしていたからで。
そんなこと分かっている。
そこに先輩と後輩の関係以外の何物でもないことくらい。
だけど祐巳さまが触れてくれるだけで舞い上がってしまう私の心を、はたしてどうすれば抑えることができるのだろうか。
「乃梨子ちゃん」
また祐巳さまが私に抱きついた。
「どうしたんですか?」
「ちょっとこのままでいさせてくれないかな」
「いいですよ」
どれくらいそうしていただろうか、祐巳さまが照れ隠しをするように苦笑いを浮かべながら私から距離をとった。
「アハハ、ごめんね」
なんて誰にでも分かりそうな百面相とともに。その顔は何かを抑えるような顔で、切ないくらいに悲しそうな顔だった。
「何かあったんですか?」
「何も、ないよ」
「嘘です。大体祐巳さまは百面相なんですから、隠し事ができると思ったら大間違いです」
「乃梨子ちゃんには敵わないなー」
「私は頼りないかもしれないけど、私じゃダメなら志摩子さんがいます。それに由乃さんだって」
「うん。そうだね」
「私は正義の味方にはなれないかもしれません。だけど、祐巳さまが困ってるならどこにだって駆けつけます」
何を言ってるんだろう、私は。
最早自分が何を言いたかったのかも分からなくなってきていた。
「じゃあ、聞いてもらおうかな?」
「どうぞ」
祐巳さまの相談に私は身構えた。
どんな話が来てもいいように、どんな話が来ても対応できるように。
「好きな人が、できたんだ」
「そう……ですか」
身構えていた私の防御網をかい潜ってその言葉は容赦なく私の胸を貫いていった。
「誰かって聞かないの?」
「誰ですか」
本当は誰かなんて聞きたくなかった。だけど祐巳さまにそんな悲しい顔で言われたら、聞かないわけにはいかなかった。
「志摩子さん」
「えっ?」
「なーんてね、冗談」
志摩子さんの名前にはじけ飛んだ私の心は、冗談の一言でまた落下した。
「祐巳さまぁ」
呆れたような声を上げたのは精一杯の抵抗。
「ごめん、ごめん」
「それで本当は誰なんですか?」
私の問いにうーんと考え込む仕草をする祐巳さまを私はただ眺めていた。さっきのやり取りの間、すでに覚悟は決まっていた。
「私の好きな人は勉強ができて」
「はい」
「真面目で」
「へえ」
「気が利いて」
「なるほど」
「おかっぱで」
「今どき珍しいですね」
「仏像が好きで」
「渋い趣味ですね。私が言うのは何ですが」
「たまに見せる笑顔が可愛かったりするの」
「祐巳さまにそんなに想われてるそいつも幸せ者ですね」
私の返事に対して、祐巳さまはいちいち微笑を浮かべる。
「うん。幸せものだね」
「誰なんですか。そいつは?」
「誰なんだろうね?」
「そんなぁ」
情けない声を上げる私を横目に祐巳さまは本当に幸せそうな顔をしていた。だから私もそれでいいかな、なんて思ったりもしてしまった。
祐巳さまが幸せなら私もきっと幸せだから。
悪者がただ悪者として存在している世界に。
正義が絶対と語られる世界に。
私はどこか羨望に似た気持ちを抱いていたのだった。
「乃梨子ちゃんはいい子だよね」
絶対正義がないこの世界は、同じく絶対悪もまた存在しない。ライダーのためのショッカーが存在しないように、天使のための悪魔が存在しないように、私のための祐巳さまもまた存在しないのだ。
「私がですか?」
「うん」
乃梨子ちゃんは良い子だと笑う祐巳さまがどこか遠くに感じられた。私は貴女に良い子と思われたいわけじゃないんです。
世界に境界線を引いて二分できればどんなに楽だろう。
正義と悪。
好きと嫌い。
残念ながら世界は私が思っているほど単純じゃなくて、そんな線は引いたところで何の意味もなさなかった。
世界は実に曖昧で。
だけど私は思う。
曖昧さは時に人を傷つけるということを。
天使じゃないなら悪魔になってください。
好きじゃないなら嫌いといってください。
それができないのならせめて私の気持ちに整理をつけさせてください。
「のーりこちゃん」
そうやって優しく接されたらあきらめることすらできません。
私の気持ちを知らない祐巳さまは私を後ろから羽交い絞めにする。
その腕に抱かれながら祐巳さまの暖かさを感じていると、その暖かさはまるで銃弾のように私の心に突き刺さるのだ。
私はステップを踏んで交わす。
右に、
左に、
それはさながらB級アクションの雑魚キャラのようで。
「ぼーっとしてたよ」
「すいません、少し考え事を」
「そう? ならいいけど」
名残も残さぬままに祐巳さまは私から離れてしまう。抱きついてみたのは聖さまが祐巳さまにそうしていたからで。
そんなこと分かっている。
そこに先輩と後輩の関係以外の何物でもないことくらい。
だけど祐巳さまが触れてくれるだけで舞い上がってしまう私の心を、はたしてどうすれば抑えることができるのだろうか。
「乃梨子ちゃん」
また祐巳さまが私に抱きついた。
「どうしたんですか?」
「ちょっとこのままでいさせてくれないかな」
「いいですよ」
どれくらいそうしていただろうか、祐巳さまが照れ隠しをするように苦笑いを浮かべながら私から距離をとった。
「アハハ、ごめんね」
なんて誰にでも分かりそうな百面相とともに。その顔は何かを抑えるような顔で、切ないくらいに悲しそうな顔だった。
「何かあったんですか?」
「何も、ないよ」
「嘘です。大体祐巳さまは百面相なんですから、隠し事ができると思ったら大間違いです」
「乃梨子ちゃんには敵わないなー」
「私は頼りないかもしれないけど、私じゃダメなら志摩子さんがいます。それに由乃さんだって」
「うん。そうだね」
「私は正義の味方にはなれないかもしれません。だけど、祐巳さまが困ってるならどこにだって駆けつけます」
何を言ってるんだろう、私は。
最早自分が何を言いたかったのかも分からなくなってきていた。
「じゃあ、聞いてもらおうかな?」
「どうぞ」
祐巳さまの相談に私は身構えた。
どんな話が来てもいいように、どんな話が来ても対応できるように。
「好きな人が、できたんだ」
「そう……ですか」
身構えていた私の防御網をかい潜ってその言葉は容赦なく私の胸を貫いていった。
「誰かって聞かないの?」
「誰ですか」
本当は誰かなんて聞きたくなかった。だけど祐巳さまにそんな悲しい顔で言われたら、聞かないわけにはいかなかった。
「志摩子さん」
「えっ?」
「なーんてね、冗談」
志摩子さんの名前にはじけ飛んだ私の心は、冗談の一言でまた落下した。
「祐巳さまぁ」
呆れたような声を上げたのは精一杯の抵抗。
「ごめん、ごめん」
「それで本当は誰なんですか?」
私の問いにうーんと考え込む仕草をする祐巳さまを私はただ眺めていた。さっきのやり取りの間、すでに覚悟は決まっていた。
「私の好きな人は勉強ができて」
「はい」
「真面目で」
「へえ」
「気が利いて」
「なるほど」
「おかっぱで」
「今どき珍しいですね」
「仏像が好きで」
「渋い趣味ですね。私が言うのは何ですが」
「たまに見せる笑顔が可愛かったりするの」
「祐巳さまにそんなに想われてるそいつも幸せ者ですね」
私の返事に対して、祐巳さまはいちいち微笑を浮かべる。
「うん。幸せものだね」
「誰なんですか。そいつは?」
「誰なんだろうね?」
「そんなぁ」
情けない声を上げる私を横目に祐巳さまは本当に幸せそうな顔をしていた。だから私もそれでいいかな、なんて思ったりもしてしまった。
祐巳さまが幸せなら私もきっと幸せだから。
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