シロイカゲ
あけましておめでとうございます。
遅くなりまして。ちょっと溜まっていたレポート三つほど上げていたら遅くなってしまいました。あと一つ終わってないんだけど。
一月はテスト期間ということで多分更新は難しいです。だからというわけではないですけど二個ほど乗っけときます。
遅くなりまして。ちょっと溜まっていたレポート三つほど上げていたら遅くなってしまいました。あと一つ終わってないんだけど。
一月はテスト期間ということで多分更新は難しいです。だからというわけではないですけど二個ほど乗っけときます。
薔薇の館の前に立っていた。
昨日あんなことをされた後だったけど、どうしても聖に聞きたいことがあったし、さすがに栞も大勢の人がいる前で襲ってくることはないだろうと思ってのことだった。
そして、祐巳が一歩薔薇の館に近づこうとすると突然後ろから声がした。
「あら、もしかして山百合会に御用?」
祐巳の心の準備ができる前に不意打ちのように栞は現れた。思わず後ずさって距離をとるが栞は不思議そうな顔をして、首をかしげている。
「驚かせてしまったかしら?」
冗談を言っているようには思えなかった。
だけど、祐巳の血を吸って置きながら次の日に何事もなかったかのように話しかけてくるなんて何か魂胆があるとしか思えなかった。
「どういうつもりですか?」
「どういうつもり、というのは?」
「忘れたんですか? 昨日私にあんなことをしておいて」
栞は本当に何も覚えていないみたいだった。
「私は一体どんなことをしてしまったのでしょうか?」
祐巳は真顔で返されて返答に困ってしまう。
首から血を吸われたという状況は言い方によっては官能的な響きにも聞こえて、それだとまるで恥ずかしがっているようにも思えてしまうから、とても自分の口から他人に言えることではなかった。
「あなたは!」
祐巳が栞との距離を詰め寄って叫ぶと後ろから誰かに抱きしめられた。
「ストップ」
振り向くとそこには中性的な顔立ちの外人が立っていた。写真を見せてもらって知ってはいたけど、実物は写真のさらに上をいくほどの美人だった。
「言っておくけど私は生粋の日本人だよ」
「顔に出てましたか」
「うん」
「それより離してください」
栞が睨んでいたのを感じて祐巳は聖にそう告げた。
さっきから栞が昨日会った時の印象とはまったく違った感じの人のように思えてならなかった。
「この子は私が呼んだの。少し話をしてくるから遅れるって言っておいて」
「わかりました」
栞は薔薇の館に姿を消した。
「私の妹が悪いことをしたね」
「聖さまは栞様のことをご存知なのですか?」
「うん。その事も含めて話せることは話すよ。でも、ここじゃあなんだからミルクホールに行こうか?」
「はい」
「先に謝っておくよ。私の妹が不快な思いをさせてしまったみたいで悪かったね」
「いえ」
「それでそのことも含めてなんだけど。祐巳ちゃん、君の血には贄の血って言われてる人ならざるものを引き寄せる血が流れてるんだよ」
「贄の血ですか?」
祐巳は思わず反芻して、そういえば昨日栞もそんなことを言っていたなと思い出す。
「あらゆる呪術で使われているように、血そのものに特別な力があるのは知ってる?」
祐巳は首を振った。
伝奇や怪談ものにそんなに詳しくなかったし、呪術も小学生の頃に流行ったコックリさんくらいしか知らない。そんな祐巳だから突然、血そのものに特別な力があると言われても戸惑うことしか出来なかった。
「力の『ち』であり命の『ち』。形ある肉の一部でありながら、形のない魂の一部でもあるもの。それはすなわち両義を生む大極であり、万物の根源。トコタチ、サツチ、カグツチ、オロチ。チは神霊そのものを表す言霊としてよく使われてる。だから人は神に血を捧げるのね。……贄の血を」
聖の言葉はまるで詩の一小節を詠んでいるかのように淀みなく流れている。
「私は生け贄にされるんですか?」
「昔の話よ。まあ、かくいう私もその人ならざるもので、祐巳ちゃんの血はとっても魅力的なんだけどね。少し貰っていい?」
聖は祐巳の不安をかき消すようにそうおどけてみせる。それですべての不安が取り除かれたわけではなかったが、祐巳も苦笑して答えた。
「聖さまには絶対あげませんよ。でも、聖さまは普通の人にしか見えませんね」
「私は半端ものだからね。それに栞だって普通の人間にしか見えなかったでしょ」
祐巳はああ、と納得したように頷く。
「それでそのことなんだけど、栞にはこの学校に封じ込められてる鬼の分霊が憑いてるの。普段は彼女の力の方が強いからあまり表には出てこないんだけど、夜とか満月が近づくと鬼の力が強くなってああしてたまに出てきちゃうわけよ」
「そうなんですか」
「ええ。でも、これからはもっと用心した方がいいかもしれないわね。祐巳ちゃんの血を飲んじゃったし」
「え、でも少ししか」
「血には貴賎があるのよ。祐巳ちゃんの血はね、とても純粋で尊い。やしおりの酒が、オロチをよい潰してしまったようにね。とても濃くて強いの。八十、八百、八千の血を、飲み干してもお釣りがくるほどにね。神でも鬼でも、あらゆる人でないモノは、祐巳ちゃんの血を飲むことで、より大きな存在になることができるの。例えそれがほんの少しだとしてもね」
「それじゃあ、私の所為で」
「祐巳ちゃんの所為じゃないでしょ。祐巳ちゃんは何も知らなかったわけだし、知っていた私が何もできなかった。あんまり気に病むんじゃないよ」
「はい」
聖は明らかにトーンの落ちた声を返す祐巳の頭を撫でた。しばらく為すがままにされていた祐巳だが、ミルクホールにいる生徒たちがそんな二人に気づいたのか黄色い声を上げ始めると恥ずかしそうに聖の手を退けた。
「あらあら」
「ふざけないでください」
祐巳だって聖が好んでそんなことを言っているわけでないことくらい分かっている。単なる照れ隠しだった。
「いつだって私は本気だよ」
「ならさっきの言葉も本気ですか?」
「さっき?」
「私の血を貰いたいって」
「あれは……」
冗談は許さないというかのような真剣な表情をしていた。その言葉の意味を聖はすぐに理解した。祐巳は聖に自分の血を飲ませるつもりなのだ。意図せずとは言え、自分の所為で鬼に力を与えてしまった。その鬼に対して祐巳は無力で、知っている中で鬼に対抗できる力を持っているのが自身のことを鬼だという聖くらいしか思いつかなかったのだ。聖と、そしてもう一人、昨日助けてくれた人が祐巳の頭に浮かぶが、残念ながらどこにいるか分からなかった。
「そうだ!」
「どうしたの? 急に」
「あの、ヘアバンドつけてる女の人知りませんか、江利子っていってたんですけど? その人に聖さまに会えって言われたんですけど」
「残念ながら知らないなぁ」
頭を掻きながら聖は答えるが、それが嘘であることくらい鈍いと言われる祐巳ですら分かった。というかまるでわざと嘘だと伝えてこれ以上その話をふるなと言われている気がしてならなかった。それでもどうしても江利子のことを知りたくて叫んでいた。
「でも!」
「私が教えられることは何もないよ。聞きたいなら本人に聞いたほうがいい」
明らかな拒絶。
祐巳はそれ以上聞くことはできなかった。
「そうですか」
「ごめんね」
「いいんです」
「それでこれからのことだけ、祐巳ちゃん一人でいたらまた栞以外の鬼に襲われるかもしれないからできるだけ私と一緒にいるようにして」
「はい、分かりました」
「必然的に山百合会の手伝いをしてもらうことになるのだけど、いい?」
「構いません」
「そ、ならいいけど。あと、もう一つ紹介して置きたい人物がいるんだけど、支倉令って言ってね鬼切り――鬼退治する人のことね。それをやってるんだけど、私がそばにいない時は令を頼って」
「はい」
「それじゃあ、行こうか。山百合会へ」
祐巳は小さく、だけど力強く頷いた。
昨日あんなことをされた後だったけど、どうしても聖に聞きたいことがあったし、さすがに栞も大勢の人がいる前で襲ってくることはないだろうと思ってのことだった。
そして、祐巳が一歩薔薇の館に近づこうとすると突然後ろから声がした。
「あら、もしかして山百合会に御用?」
祐巳の心の準備ができる前に不意打ちのように栞は現れた。思わず後ずさって距離をとるが栞は不思議そうな顔をして、首をかしげている。
「驚かせてしまったかしら?」
冗談を言っているようには思えなかった。
だけど、祐巳の血を吸って置きながら次の日に何事もなかったかのように話しかけてくるなんて何か魂胆があるとしか思えなかった。
「どういうつもりですか?」
「どういうつもり、というのは?」
「忘れたんですか? 昨日私にあんなことをしておいて」
栞は本当に何も覚えていないみたいだった。
「私は一体どんなことをしてしまったのでしょうか?」
祐巳は真顔で返されて返答に困ってしまう。
首から血を吸われたという状況は言い方によっては官能的な響きにも聞こえて、それだとまるで恥ずかしがっているようにも思えてしまうから、とても自分の口から他人に言えることではなかった。
「あなたは!」
祐巳が栞との距離を詰め寄って叫ぶと後ろから誰かに抱きしめられた。
「ストップ」
振り向くとそこには中性的な顔立ちの外人が立っていた。写真を見せてもらって知ってはいたけど、実物は写真のさらに上をいくほどの美人だった。
「言っておくけど私は生粋の日本人だよ」
「顔に出てましたか」
「うん」
「それより離してください」
栞が睨んでいたのを感じて祐巳は聖にそう告げた。
さっきから栞が昨日会った時の印象とはまったく違った感じの人のように思えてならなかった。
「この子は私が呼んだの。少し話をしてくるから遅れるって言っておいて」
「わかりました」
栞は薔薇の館に姿を消した。
「私の妹が悪いことをしたね」
「聖さまは栞様のことをご存知なのですか?」
「うん。その事も含めて話せることは話すよ。でも、ここじゃあなんだからミルクホールに行こうか?」
「はい」
「先に謝っておくよ。私の妹が不快な思いをさせてしまったみたいで悪かったね」
「いえ」
「それでそのことも含めてなんだけど。祐巳ちゃん、君の血には贄の血って言われてる人ならざるものを引き寄せる血が流れてるんだよ」
「贄の血ですか?」
祐巳は思わず反芻して、そういえば昨日栞もそんなことを言っていたなと思い出す。
「あらゆる呪術で使われているように、血そのものに特別な力があるのは知ってる?」
祐巳は首を振った。
伝奇や怪談ものにそんなに詳しくなかったし、呪術も小学生の頃に流行ったコックリさんくらいしか知らない。そんな祐巳だから突然、血そのものに特別な力があると言われても戸惑うことしか出来なかった。
「力の『ち』であり命の『ち』。形ある肉の一部でありながら、形のない魂の一部でもあるもの。それはすなわち両義を生む大極であり、万物の根源。トコタチ、サツチ、カグツチ、オロチ。チは神霊そのものを表す言霊としてよく使われてる。だから人は神に血を捧げるのね。……贄の血を」
聖の言葉はまるで詩の一小節を詠んでいるかのように淀みなく流れている。
「私は生け贄にされるんですか?」
「昔の話よ。まあ、かくいう私もその人ならざるもので、祐巳ちゃんの血はとっても魅力的なんだけどね。少し貰っていい?」
聖は祐巳の不安をかき消すようにそうおどけてみせる。それですべての不安が取り除かれたわけではなかったが、祐巳も苦笑して答えた。
「聖さまには絶対あげませんよ。でも、聖さまは普通の人にしか見えませんね」
「私は半端ものだからね。それに栞だって普通の人間にしか見えなかったでしょ」
祐巳はああ、と納得したように頷く。
「それでそのことなんだけど、栞にはこの学校に封じ込められてる鬼の分霊が憑いてるの。普段は彼女の力の方が強いからあまり表には出てこないんだけど、夜とか満月が近づくと鬼の力が強くなってああしてたまに出てきちゃうわけよ」
「そうなんですか」
「ええ。でも、これからはもっと用心した方がいいかもしれないわね。祐巳ちゃんの血を飲んじゃったし」
「え、でも少ししか」
「血には貴賎があるのよ。祐巳ちゃんの血はね、とても純粋で尊い。やしおりの酒が、オロチをよい潰してしまったようにね。とても濃くて強いの。八十、八百、八千の血を、飲み干してもお釣りがくるほどにね。神でも鬼でも、あらゆる人でないモノは、祐巳ちゃんの血を飲むことで、より大きな存在になることができるの。例えそれがほんの少しだとしてもね」
「それじゃあ、私の所為で」
「祐巳ちゃんの所為じゃないでしょ。祐巳ちゃんは何も知らなかったわけだし、知っていた私が何もできなかった。あんまり気に病むんじゃないよ」
「はい」
聖は明らかにトーンの落ちた声を返す祐巳の頭を撫でた。しばらく為すがままにされていた祐巳だが、ミルクホールにいる生徒たちがそんな二人に気づいたのか黄色い声を上げ始めると恥ずかしそうに聖の手を退けた。
「あらあら」
「ふざけないでください」
祐巳だって聖が好んでそんなことを言っているわけでないことくらい分かっている。単なる照れ隠しだった。
「いつだって私は本気だよ」
「ならさっきの言葉も本気ですか?」
「さっき?」
「私の血を貰いたいって」
「あれは……」
冗談は許さないというかのような真剣な表情をしていた。その言葉の意味を聖はすぐに理解した。祐巳は聖に自分の血を飲ませるつもりなのだ。意図せずとは言え、自分の所為で鬼に力を与えてしまった。その鬼に対して祐巳は無力で、知っている中で鬼に対抗できる力を持っているのが自身のことを鬼だという聖くらいしか思いつかなかったのだ。聖と、そしてもう一人、昨日助けてくれた人が祐巳の頭に浮かぶが、残念ながらどこにいるか分からなかった。
「そうだ!」
「どうしたの? 急に」
「あの、ヘアバンドつけてる女の人知りませんか、江利子っていってたんですけど? その人に聖さまに会えって言われたんですけど」
「残念ながら知らないなぁ」
頭を掻きながら聖は答えるが、それが嘘であることくらい鈍いと言われる祐巳ですら分かった。というかまるでわざと嘘だと伝えてこれ以上その話をふるなと言われている気がしてならなかった。それでもどうしても江利子のことを知りたくて叫んでいた。
「でも!」
「私が教えられることは何もないよ。聞きたいなら本人に聞いたほうがいい」
明らかな拒絶。
祐巳はそれ以上聞くことはできなかった。
「そうですか」
「ごめんね」
「いいんです」
「それでこれからのことだけ、祐巳ちゃん一人でいたらまた栞以外の鬼に襲われるかもしれないからできるだけ私と一緒にいるようにして」
「はい、分かりました」
「必然的に山百合会の手伝いをしてもらうことになるのだけど、いい?」
「構いません」
「そ、ならいいけど。あと、もう一つ紹介して置きたい人物がいるんだけど、支倉令って言ってね鬼切り――鬼退治する人のことね。それをやってるんだけど、私がそばにいない時は令を頼って」
「はい」
「それじゃあ、行こうか。山百合会へ」
祐巳は小さく、だけど力強く頷いた。
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