二条乃梨子はかく語る
乃梨子×祐巳二作目。
なんかひたすら乃梨子が暴走している話。ちょっと書き方を変えてみた。会話文と地文の間を一行空けてあります。詰めすぎは見辛いのかなと思って。
ちょっとだけ訂正しときました。
なんかひたすら乃梨子が暴走している話。ちょっと書き方を変えてみた。会話文と地文の間を一行空けてあります。詰めすぎは見辛いのかなと思って。
ちょっとだけ訂正しときました。
抑えられないこの気持ち。私はその対処法を知らない。心臓が破裂しそうなくらいに伸縮運動を繰り返し、脳は電気信号を遮断して考えることすらままならないこの状態。一体どうやって解決すればいいのか私は知らない。
「乃梨子ちゃーん」
祐巳さまは私の前で何度も手を左右させている。何か答えなくてはと口を開くが果たしてなんと答えるのが正解なのか私には分からない。恋人同士になって初めてのデート。私が祐巳さまを誘い、日曜日にこうして待ち合わせをしてこれから出かけることに相成ったわけだが、緊張のおかげで昨日は一睡たりとも出来なくて、それが思考能力に多少なりとも影響しているのはいうまでもない話。
何より私は私服姿の祐巳さまを前に軽く言葉を失ってしまっていたのだ。
「乃梨子ちゃん?」
訝しげな表情を浮かべて私の顔を覗き見る祐巳さま。
ああ、あなたはなんでそんなに可愛いんでしょうか、無防備な笑顔を浮かべて「もう! 聞いてるの?」なんて言われた日には、幸せパラメータが一気にゲージを突き破るくらいに駆け上がるのが分かるのです。もっとも突き破ったからといって無敵モードに突入するわけでもなく、ただ私の心が燻られたトウモロコシのようにポップしてコーンになるわけです。
「乃梨子ちゃん?」
もう何度目だろうか。
祐巳さまに名前を呼ばれて私はようやく覚醒を果たす。
「あ、聞いてます」
「聞いてないじゃない」
祐巳さまはむくれてそう言うとソッポを向いてしまった。出だしから最悪である。どうやら私の思考が機能停止を果たしている間に祐巳さまは何か質問をしていたみたいだった。その質問を見事予想して答えるのもありなのだが、それはとても危険な賭けで外した時が恐かった。
「ごめんなさい」
だから私は先手必勝と言わんとばかりに体制低く謝罪して、祐巳さまの怒りが頭の上を特急通過していくのを待つのだった。
「もう、私の服似合ってるかな、って聞いたの。そんな風に謝らないでよ。恥ずかしいから」
どうやら私の選択肢は間違いではなかったらしく、祐巳さまの怒りは収まっていて。このまま祐巳さまルートまっしぐらだ、とか調子こいてると
「ちょっと乃梨子ちゃん、さっきから上の空!」
祐巳さまからまた指導が入ってしまった。
「あ、すいません。祐巳さまとデート出来るのが嬉しくて」
偽りのない本音。
「あ、ありがと」
そんな私の他愛もない言葉に祐巳さまは顔を朱に染めてはにかんでいた。その表情はまさに殺人もので、事実すでに私はその笑顔に殺られていた。
「でも、デートなんてこれから何度だって出来るんだし、その度に上の空でいられたら私が楽しくないよ?」
「ごめんなさい」
「謝らない」
「はい」
ふふ、と私たちは笑いあって。
「それじゃあ行きましょうか?」
「うん!」
「あ、それとその服似合ってますよ。私が言うんだから間違いありません」
「ありがと。実は祐麒に馬子にも衣装って言われて、ちょっと似合ってるか自信なかったんだけど、乃梨子ちゃんが言うなら安心だね」
馬子にも衣装だなんて祐麒さんは何を言ってるんだろうか。いくら未来のお義兄さまとはいえ言ってい良いことと許されないことがある。そもそも祐巳さまのどこを見て馬子だなんて言えるのだろうか。この魅力溢れる狸顔。見る人全てを癒してしまいそうな微笑み。平均的な可愛らしいスタイル。どこをとっても欠点なんて見当たらないというのに。まったく恋は盲目とはよく言うが、兄弟みたいに近くにいすぎると分からなくなることも多いみたいだ。
「乃梨子ちゃん?」
「あ、いえ。なんでもないです」
「そう?」
私と祐巳さまは目的の場所に向かって歩き始めた。
そして、数歩行ったところで私はふと疑問に思った。私たちはすでに恋人同士。ということは手を握って歩くべきなじゃないか、と。だけど、すでに歩き出してしまった後で、いまさら手握ろうかなんていえるタイミングでもなく。
「それじゃそろそろ行きましょうか?」
「うん」
「祐巳さま、手を」
「あ、うん」
祐巳さまは恥ずかしそうにしながらも私の手を握る。
なんていう昨日寝ないで考えた完璧で最高の計画が爆音を立てて崩れ落ちてしまっているわけで。
「あ、の」
それでも未練を捨てきれない私は思わず祐巳さまを呼び止めていた。
「どうしたの?」
「あ、いえ。何でもないんですけど」
言えるはずがない。
言えるわけがない。
そんな純真丸出しの笑顔で聞かれたら「ゲハハ、祐巳さまと手を握りたいでやんす」なんてまるで変態そのものみたいなお願いできるわけないじゃないか。
そんなこと考えているといつの間にか祐巳さまが不思議そうに私のことを眺めていて。
「もう、早くしないと映画始まっちゃうんだからね」
と、私が出来なかったそれをいとも簡単にしてしまうのだった。つまり私は祐巳さまに手を引かれていて、それが例え映画に遅れないようにするためだと分かっていても天に昇るような幸せな気分になれるのだった。
恋って単純。
愛って不思議。
質問。二条乃梨子の幸せ回路の組み合わせは何通りですか。
答え。祐巳さま。
私は祐巳さまがいればハッピーで、他に誰も必要ないなんていうつもりはないのだけど、そこに祐巳さまがいない世界などこれっぽっちも考えられなくて。私が幸せを感じる瞬間にはいつも祐巳さまが近くにいてくれた。
私の手を引きながら歩く祐巳さまの後ろ姿を眺めながら思った。
私は祐巳さまが大好きで、おそらくこれからもそれだけは変わることはなくて、大人になってもお婆ちゃんになっても、祐巳さまに他に好きな人ができても、祐巳さまが他の人と結婚してしまっても変わることはないんだと思う。
そのことを祐巳さまに告げたら一体どんな反応をしてくれるだろうか。乃梨子ちゃんは大袈裟だなと笑うだろうか、真面目だなと誉めてくれるだろうか、私一人に縛られるなんて許さないよと怒ってくれるだろうか、ありがとうと泣いてくれるだろうか。
多分どれも違うと思った。
祐巳さまは優しい人だから。
「私もだよ」
そう答えてくれる気がしてならなかった。
だけど、果たして私たちはいつまでこうしていられるのだろうか。大学に行けば出会いが増えて男の人と会話する機会も増えるだろう。社会に出れば働いてそのうち親から結婚を催促される日が来るのかもしれない。
私が女で祐巳さまも女である限り、ずっとこいうしていることはできないかもしれない。
だけど、ここで確かに祐巳さまと私の心が繋がっていたことを私はしっかりと記憶に残して。
そして、私はたまに振り返って笑みを零す祐巳さまに心を満たされながら、出来るだけ長く一秒でも一瞬でも長く一緒にいられるように、ただ願った。
「乃梨子ちゃん。早く、早く」
「そんなに急がなくても間に合いますって」
「いーの、今は急ぎたい気分なの」
「なんですか、それは」
そう苦笑しつつも、私は確かに祐巳さまと同じ気持ちで。
この手を長く掴んでいられるように映画館へ歩を進めるのだった。
「乃梨子ちゃーん」
祐巳さまは私の前で何度も手を左右させている。何か答えなくてはと口を開くが果たしてなんと答えるのが正解なのか私には分からない。恋人同士になって初めてのデート。私が祐巳さまを誘い、日曜日にこうして待ち合わせをしてこれから出かけることに相成ったわけだが、緊張のおかげで昨日は一睡たりとも出来なくて、それが思考能力に多少なりとも影響しているのはいうまでもない話。
何より私は私服姿の祐巳さまを前に軽く言葉を失ってしまっていたのだ。
「乃梨子ちゃん?」
訝しげな表情を浮かべて私の顔を覗き見る祐巳さま。
ああ、あなたはなんでそんなに可愛いんでしょうか、無防備な笑顔を浮かべて「もう! 聞いてるの?」なんて言われた日には、幸せパラメータが一気にゲージを突き破るくらいに駆け上がるのが分かるのです。もっとも突き破ったからといって無敵モードに突入するわけでもなく、ただ私の心が燻られたトウモロコシのようにポップしてコーンになるわけです。
「乃梨子ちゃん?」
もう何度目だろうか。
祐巳さまに名前を呼ばれて私はようやく覚醒を果たす。
「あ、聞いてます」
「聞いてないじゃない」
祐巳さまはむくれてそう言うとソッポを向いてしまった。出だしから最悪である。どうやら私の思考が機能停止を果たしている間に祐巳さまは何か質問をしていたみたいだった。その質問を見事予想して答えるのもありなのだが、それはとても危険な賭けで外した時が恐かった。
「ごめんなさい」
だから私は先手必勝と言わんとばかりに体制低く謝罪して、祐巳さまの怒りが頭の上を特急通過していくのを待つのだった。
「もう、私の服似合ってるかな、って聞いたの。そんな風に謝らないでよ。恥ずかしいから」
どうやら私の選択肢は間違いではなかったらしく、祐巳さまの怒りは収まっていて。このまま祐巳さまルートまっしぐらだ、とか調子こいてると
「ちょっと乃梨子ちゃん、さっきから上の空!」
祐巳さまからまた指導が入ってしまった。
「あ、すいません。祐巳さまとデート出来るのが嬉しくて」
偽りのない本音。
「あ、ありがと」
そんな私の他愛もない言葉に祐巳さまは顔を朱に染めてはにかんでいた。その表情はまさに殺人もので、事実すでに私はその笑顔に殺られていた。
「でも、デートなんてこれから何度だって出来るんだし、その度に上の空でいられたら私が楽しくないよ?」
「ごめんなさい」
「謝らない」
「はい」
ふふ、と私たちは笑いあって。
「それじゃあ行きましょうか?」
「うん!」
「あ、それとその服似合ってますよ。私が言うんだから間違いありません」
「ありがと。実は祐麒に馬子にも衣装って言われて、ちょっと似合ってるか自信なかったんだけど、乃梨子ちゃんが言うなら安心だね」
馬子にも衣装だなんて祐麒さんは何を言ってるんだろうか。いくら未来のお義兄さまとはいえ言ってい良いことと許されないことがある。そもそも祐巳さまのどこを見て馬子だなんて言えるのだろうか。この魅力溢れる狸顔。見る人全てを癒してしまいそうな微笑み。平均的な可愛らしいスタイル。どこをとっても欠点なんて見当たらないというのに。まったく恋は盲目とはよく言うが、兄弟みたいに近くにいすぎると分からなくなることも多いみたいだ。
「乃梨子ちゃん?」
「あ、いえ。なんでもないです」
「そう?」
私と祐巳さまは目的の場所に向かって歩き始めた。
そして、数歩行ったところで私はふと疑問に思った。私たちはすでに恋人同士。ということは手を握って歩くべきなじゃないか、と。だけど、すでに歩き出してしまった後で、いまさら手握ろうかなんていえるタイミングでもなく。
「それじゃそろそろ行きましょうか?」
「うん」
「祐巳さま、手を」
「あ、うん」
祐巳さまは恥ずかしそうにしながらも私の手を握る。
なんていう昨日寝ないで考えた完璧で最高の計画が爆音を立てて崩れ落ちてしまっているわけで。
「あ、の」
それでも未練を捨てきれない私は思わず祐巳さまを呼び止めていた。
「どうしたの?」
「あ、いえ。何でもないんですけど」
言えるはずがない。
言えるわけがない。
そんな純真丸出しの笑顔で聞かれたら「ゲハハ、祐巳さまと手を握りたいでやんす」なんてまるで変態そのものみたいなお願いできるわけないじゃないか。
そんなこと考えているといつの間にか祐巳さまが不思議そうに私のことを眺めていて。
「もう、早くしないと映画始まっちゃうんだからね」
と、私が出来なかったそれをいとも簡単にしてしまうのだった。つまり私は祐巳さまに手を引かれていて、それが例え映画に遅れないようにするためだと分かっていても天に昇るような幸せな気分になれるのだった。
恋って単純。
愛って不思議。
質問。二条乃梨子の幸せ回路の組み合わせは何通りですか。
答え。祐巳さま。
私は祐巳さまがいればハッピーで、他に誰も必要ないなんていうつもりはないのだけど、そこに祐巳さまがいない世界などこれっぽっちも考えられなくて。私が幸せを感じる瞬間にはいつも祐巳さまが近くにいてくれた。
私の手を引きながら歩く祐巳さまの後ろ姿を眺めながら思った。
私は祐巳さまが大好きで、おそらくこれからもそれだけは変わることはなくて、大人になってもお婆ちゃんになっても、祐巳さまに他に好きな人ができても、祐巳さまが他の人と結婚してしまっても変わることはないんだと思う。
そのことを祐巳さまに告げたら一体どんな反応をしてくれるだろうか。乃梨子ちゃんは大袈裟だなと笑うだろうか、真面目だなと誉めてくれるだろうか、私一人に縛られるなんて許さないよと怒ってくれるだろうか、ありがとうと泣いてくれるだろうか。
多分どれも違うと思った。
祐巳さまは優しい人だから。
「私もだよ」
そう答えてくれる気がしてならなかった。
だけど、果たして私たちはいつまでこうしていられるのだろうか。大学に行けば出会いが増えて男の人と会話する機会も増えるだろう。社会に出れば働いてそのうち親から結婚を催促される日が来るのかもしれない。
私が女で祐巳さまも女である限り、ずっとこいうしていることはできないかもしれない。
だけど、ここで確かに祐巳さまと私の心が繋がっていたことを私はしっかりと記憶に残して。
そして、私はたまに振り返って笑みを零す祐巳さまに心を満たされながら、出来るだけ長く一秒でも一瞬でも長く一緒にいられるように、ただ願った。
「乃梨子ちゃん。早く、早く」
「そんなに急がなくても間に合いますって」
「いーの、今は急ぎたい気分なの」
「なんですか、それは」
そう苦笑しつつも、私は確かに祐巳さまと同じ気持ちで。
この手を長く掴んでいられるように映画館へ歩を進めるのだった。
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