love note
デスノートのクロス。思いつき。一人称は乃梨子だけど。乃×祐というわけじゃない。というか乃梨×祐巳好きとか言いながら、こんな話書いてる自分ってw
直書きだから誤字とか多いかも。
直書きだから誤字とか多いかも。
私は今、手にしているものを眺めながら悪意に満ちた笑みを浮かべていたと思う。なんせ好き人の気持ちを思い通りにできるノートを手にしているのだから。
天使のような微笑で私を包んでくれる、だけどどこか天然でそれがどれほど愛おしいか。
「祐巳さま」
私は想い人の名前を呟いた。
ここにその名とシチュエーションを書けばその通りのことをしてくれるというノートだった。この効果はすでに私の憎き相手、そして祐巳さまの想い人である聖さまで実証済みだった。
祐巳さまが嫌いになるくらい聖さまにひどいことをさせるという手段も思い浮かんだのだが、さすがに私には祐巳さまを泣かすことは出来なかった。
それならばこのノートで聖さまに辱めをし、祐巳さまを我が物にしてしまえばと私の悪魔が助言をしてきたのだ。ちなみに聖さまにしてもらった辱めは口で語ることはできない。
「さて」
このノートのいいところは何度でもシチュエーションを変えて命令できるということだった。
「なんて書こうか」
祐巳さまともし両思いになれたら朝一緒に登校してみたかった。ちょっと遠くなっても私が祐巳さまの家に迎えに行って他愛のない話をしながら学校へ向かうのだ。そして、マリア様の前でいつもは祥子さまが収まるその位置に私がいる。
「これでいいか」
福沢祐巳
十二月一日。二条乃梨子が家まで迎えにくるのを待って学校へ登校する。そして、マリア像の前で二条乃梨子が福沢祐巳のタイを直す。
「よし」
とりあえずこれくらいでいいだろう。
その後のシチュはまた書き直せばいいのだから。私ははやる気持ちを抑えて、ベッドにもぐり眠りにつくのだった。
朝、早起きした私は遠回りすることも厭わず祐巳さまの家に直行した。一秒でも早く祐巳さまに会いたかった。いつも祐巳さまが家に出る時間を見計らって私は家のチャイムを押した。
「え、乃梨子ちゃん。どうして」
と、祐巳さまが驚くのが目に浮かぶ。私はそんな未来をニヤニヤしながら想像していた。
「はい」
ガチャ、と扉が開いて出てきたのは祐麒さんだった。
「あ、二条さん。もしかして祐巳に用事だった? 祐巳ならついさっき出て行ったよ」
「え?」
「約束でもしてたの?」
「いえ、大丈夫です」
不適切な答えを返しえて、祐巳さまを追った。一体どうしてだろうか。私は確かにノートに祐巳さまの名前を書いて、今日の朝は一緒に登校しようと書いたはずなのに。
間違いだっただろうか。
不安に思った私は確認のためにノートを出して確かめてみたが、どこにも間違いは見当たらなかった。結局、祐巳さまは一つ先のバスで行ってしまったようだった。
一個遅れのバスだったおかげで、私は遅刻ギリギリになってしまい、スカートのプリッツもセーラカラーも関係無しに教室に向かって走っていると、前に見知った顔があった。
「由乃さま」
「乃梨子ちゃんも遅刻?」
「まあ、そうなります」
「早く行かないと間に合わないわよ」
「分かってますよ」
私は由乃さまに促されてダッシュで教室に向かった。結論から言えばHRには間に合ったのだけど、ギリギリで飛び込んだため先生に注意されてしまった。
「何でだ」
授業が終わって休み時間。
私は今日の朝の失敗を考えていた。もう少し具体的にシチュを書かなければいけなかったのかとか、それが可能なシチュだったのかとか。
「もう一度」
私は呟くと今度はお昼休みのことを書くことにした。
福沢祐巳。
お昼休みに祐巳さまが二条乃梨子の教室まで迎えに来てくれて、中庭に一緒にご飯を食べに行く。福沢祐巳は二条乃梨子に自分のお弁当を食べさせてくれ、終えた後は膝枕で予鈴の前までのんびりと過ごす。
これなら完璧だ。
私は自分に相槌を打って、ノートを閉じる。私ははやる気持ちを抑えて残りの授業に集中するのだった。
昼、私は今か今かと祐巳さまを待っていた。一秒でも早く祐巳さまに会いたかったが、祐巳さまが「乃梨子ちゃん」とひょっこっと教室のドアから満面の笑みで現れてくれるのを待っていたかったからだった。
一分後、まだかと教室の時計を見上げる。
五分後、まだかとケータイの時計を見る。教室の時計は間違っていない。
十分後、まだかと友達の時計を奪って見る。教室の時計もケータイの時計間違っていない。
十五分後、ケータイで時報に電話をかける。教室の時計もケータイの時計も友達の時計も間違っていない。
二十分後、私は我慢できなくなって祐巳さまの教室に向かうことにした。
「やあ、乃梨子ちゃん」
途中、見知った顔に会って私は挨拶をした。
「ごきげんよう、令さま」
「今からお昼」
「はい」
「そう。それじゃあ、また放課後」
そんなやり取りの後、私は祐巳さまの教室に着いた。教室に祐巳さまの姿はなく、近くにいた生徒にどこに行ったか聞いてみる。
「薔薇の館に行ったわよ」
なぜだ。
私は確かにお昼に祐巳さまと一緒にお弁当を食べると書いたはずなのに。
間違いだったのだろうか。
私は一抹の不安を覚えてノートを確認するが、間違いは見当たらない。もしや私は聖さまに担がれたのかもしれないと思い、新たに別の人間とシチュを書き込んでみることにした。
細川可南子
最短距離で二条乃梨子のところまで来る。
これで可南子が来なかったら聖さまに担がれたということだろう。確かにあの時、私の書いていたノートを見ていた聖さまは私を騙すために口にも出来ないような恥ずかしい行為をしてもおかしくはない。
だが、しかしそれは否定される。
「乃梨子さん」
「可南子、どうしたの?」
「急に会いたくなって、特に用事はないわ」
それだけを言うと可南子は教室に帰っていった。
このノートは本物ならなぜ実行されないんだ。
私は訳が分からなかった。
そして、もう一度シチュを書き込むことにした。
福沢祐巳。
放課後、二条乃梨子を迎えに教室まで来て薔薇の館に一緒に行く。
これでどうだろう。
私は確認する意味で簡単なシチュにし、ノートを閉じる。私ははやる気持ちを抑えて残りの授業に集中するのだった。
そして、放課後が訪れた。
昼の時とは違い先に祐巳さまの教室に向かい、その動向を伺うことにした。教室から生徒が出てきて、その中に祐巳さまの姿があった。だが、向かう先は私の教室の方向ではなく薔薇の館だった。
私が慌てて追いかけると見知った顔が前にあった。
「祥子さま」
「あら、乃梨子ちゃん。どうしたの? こんなところで」
「それを言うなら祥子さまは?」
「私は祐巳を迎えに来たのよ」
「私は志摩子さんです」
まあ、嘘だ。
もっともそんなことを話している間に、祐巳さまは見えないところまで行ってしまっていた。
まあ、祥子さまに取られるくらいならいいかと自己解決した。
このノートはどこかおかしい。聖さまや、可南子といった私がどうでもいいと思っている人は簡単に命令に従ってくれるのに、本命の祐巳さまにはまったく効かない。
本命に効かないんじゃ、こんな意味ないじゃないかと思ったが捨てはしなかった。
そして、薔薇の館。
私は帰りのシチュを設定しようとノートを取り出した。一体どういうシチュにしようか私が考えていると何やら薔薇の館の様子がおかしいことに気づいた。
周りを見渡すと。
「あら、乃梨子。面白そうなノート持っているのね」
そういう志摩子さんの手元にも。
「そういう志摩子だって」
そういう令さまの手元にも。
「あら、令ちゃんだって」
そういう由乃さまの手元にも。
「由乃ちゃんも人のこと言えるのかしら」
そういう祥子さまの手元にも。
ああ、なるほど。私は納得するわけだった。
このノートは矛盾が起きるとその効果が現れない。つまり私たちは自分の欲望をむき出しにしたシチュで互いのシチュを相殺していたというわけだ。
ならば私はこの薔薇の館にいる人間を私の虜にするまでだ、とペンを取るが考えていることは全員同じようで。
ペンを持った状態で膠着していた。
書き始めた人間は真っ先に餌食になる。
そんな膠着状態が何分続いたか分からなかったが、どこかに行っていた祐巳さまが戻ってきてとかれることになった。
「もうそろそろ終わりにしようか」
「そうだね」
と偽りの笑顔を浮かべて解散する私たち。
銀杏並木を歩きながらもそれぞれが出し抜く機会を狙っていた。だが、そこに共通の敵が現れた。
「祐巳ちゃーん」
「あっ、聖さま」
子犬のように駆けて行く祐巳さま。
その時に私たちの心は一つになっていた。
「ちょっと祐巳ちゃんが行っちゃうよ」
「キィー、何であんなナンパな女に」
「私の祐巳さんを」
「祐巳さんは私のものだよ」
「ここは誰かが祐巳さまのことを好きにして、聖さまに別れ話でも」
バッと全員がノートを取り出して文字を書く。
そう、みんなはこの時目先のことに捕らわれて本当の真実に気づけていなかった。まさに今がこの山百合会を掌握する絶好のチャンスだということに。
私は迷わず祥子さまの名前を記入する。
小笠原祥子。
二条乃梨子の奴隷になる。
そして、次の人物を記入しようとしたその時、私は不思議な感覚に捕らわれていた。おさげ髪の一学年先輩。病弱設定を覆したイケイケ女。祐巳さまの足元にも及ばないと思っていた彼女のことがなぜだかとても愛おしく感じられたのだった。もうこの人のためだったら死んでもいいと思えるくらいに。
「由乃さま」
私が由乃さまの足に縋りつくと、それを止めるように祥子さまが私の足にしがみつく。
「乃梨子ちゃん」
ああ、そういえば私は確かこの女のことを自分の奴隷にしたんだっけということを思い出して。
私は今何してるんだろう、とか色々疑問に思うこともあったのだけど、私はもう由乃さまがいればこの世界がどうなろうとしったことではないのだった。
「由乃さま、どうぞ私を召使のようにこき使ってください」
その由乃さまも志摩子さんの足にしがみついていて、その志摩子さんも令さまにしがみついていて、その令さまも祥子さまにしがみついていた。
それはまるで欲望の連鎖のようで。
かろうじて見上げれば、祐巳さまは聖さまと共にどこかに行ってしまうところで。
「ああ、由乃さま。大好きです」
私は涙を流しながら由乃さまのために一生この身を尽くそうと心に誓うのだった。
「お姉さまたちは?」
「見ないほうがいいよ。自分の欲に溺れた悲しい姿しかないからさ。祐巳ちゃんは見る必要ない」
「そうですか?」
「うん」
「それより今日はどこ行こうか?」
「聖さまと一緒ならどこでも」
「そっか。じゃあめくるめく大人の世界にでも」
聖のそんな悪戯な言葉に祐巳は赤くした顔を俯かせて、はにかんで頷くのだった。
「はい。優しくしてくださいね」
「りょーかい」
天使のような微笑で私を包んでくれる、だけどどこか天然でそれがどれほど愛おしいか。
「祐巳さま」
私は想い人の名前を呟いた。
ここにその名とシチュエーションを書けばその通りのことをしてくれるというノートだった。この効果はすでに私の憎き相手、そして祐巳さまの想い人である聖さまで実証済みだった。
祐巳さまが嫌いになるくらい聖さまにひどいことをさせるという手段も思い浮かんだのだが、さすがに私には祐巳さまを泣かすことは出来なかった。
それならばこのノートで聖さまに辱めをし、祐巳さまを我が物にしてしまえばと私の悪魔が助言をしてきたのだ。ちなみに聖さまにしてもらった辱めは口で語ることはできない。
「さて」
このノートのいいところは何度でもシチュエーションを変えて命令できるということだった。
「なんて書こうか」
祐巳さまともし両思いになれたら朝一緒に登校してみたかった。ちょっと遠くなっても私が祐巳さまの家に迎えに行って他愛のない話をしながら学校へ向かうのだ。そして、マリア様の前でいつもは祥子さまが収まるその位置に私がいる。
「これでいいか」
福沢祐巳
十二月一日。二条乃梨子が家まで迎えにくるのを待って学校へ登校する。そして、マリア像の前で二条乃梨子が福沢祐巳のタイを直す。
「よし」
とりあえずこれくらいでいいだろう。
その後のシチュはまた書き直せばいいのだから。私ははやる気持ちを抑えて、ベッドにもぐり眠りにつくのだった。
朝、早起きした私は遠回りすることも厭わず祐巳さまの家に直行した。一秒でも早く祐巳さまに会いたかった。いつも祐巳さまが家に出る時間を見計らって私は家のチャイムを押した。
「え、乃梨子ちゃん。どうして」
と、祐巳さまが驚くのが目に浮かぶ。私はそんな未来をニヤニヤしながら想像していた。
「はい」
ガチャ、と扉が開いて出てきたのは祐麒さんだった。
「あ、二条さん。もしかして祐巳に用事だった? 祐巳ならついさっき出て行ったよ」
「え?」
「約束でもしてたの?」
「いえ、大丈夫です」
不適切な答えを返しえて、祐巳さまを追った。一体どうしてだろうか。私は確かにノートに祐巳さまの名前を書いて、今日の朝は一緒に登校しようと書いたはずなのに。
間違いだっただろうか。
不安に思った私は確認のためにノートを出して確かめてみたが、どこにも間違いは見当たらなかった。結局、祐巳さまは一つ先のバスで行ってしまったようだった。
一個遅れのバスだったおかげで、私は遅刻ギリギリになってしまい、スカートのプリッツもセーラカラーも関係無しに教室に向かって走っていると、前に見知った顔があった。
「由乃さま」
「乃梨子ちゃんも遅刻?」
「まあ、そうなります」
「早く行かないと間に合わないわよ」
「分かってますよ」
私は由乃さまに促されてダッシュで教室に向かった。結論から言えばHRには間に合ったのだけど、ギリギリで飛び込んだため先生に注意されてしまった。
「何でだ」
授業が終わって休み時間。
私は今日の朝の失敗を考えていた。もう少し具体的にシチュを書かなければいけなかったのかとか、それが可能なシチュだったのかとか。
「もう一度」
私は呟くと今度はお昼休みのことを書くことにした。
福沢祐巳。
お昼休みに祐巳さまが二条乃梨子の教室まで迎えに来てくれて、中庭に一緒にご飯を食べに行く。福沢祐巳は二条乃梨子に自分のお弁当を食べさせてくれ、終えた後は膝枕で予鈴の前までのんびりと過ごす。
これなら完璧だ。
私は自分に相槌を打って、ノートを閉じる。私ははやる気持ちを抑えて残りの授業に集中するのだった。
昼、私は今か今かと祐巳さまを待っていた。一秒でも早く祐巳さまに会いたかったが、祐巳さまが「乃梨子ちゃん」とひょっこっと教室のドアから満面の笑みで現れてくれるのを待っていたかったからだった。
一分後、まだかと教室の時計を見上げる。
五分後、まだかとケータイの時計を見る。教室の時計は間違っていない。
十分後、まだかと友達の時計を奪って見る。教室の時計もケータイの時計間違っていない。
十五分後、ケータイで時報に電話をかける。教室の時計もケータイの時計も友達の時計も間違っていない。
二十分後、私は我慢できなくなって祐巳さまの教室に向かうことにした。
「やあ、乃梨子ちゃん」
途中、見知った顔に会って私は挨拶をした。
「ごきげんよう、令さま」
「今からお昼」
「はい」
「そう。それじゃあ、また放課後」
そんなやり取りの後、私は祐巳さまの教室に着いた。教室に祐巳さまの姿はなく、近くにいた生徒にどこに行ったか聞いてみる。
「薔薇の館に行ったわよ」
なぜだ。
私は確かにお昼に祐巳さまと一緒にお弁当を食べると書いたはずなのに。
間違いだったのだろうか。
私は一抹の不安を覚えてノートを確認するが、間違いは見当たらない。もしや私は聖さまに担がれたのかもしれないと思い、新たに別の人間とシチュを書き込んでみることにした。
細川可南子
最短距離で二条乃梨子のところまで来る。
これで可南子が来なかったら聖さまに担がれたということだろう。確かにあの時、私の書いていたノートを見ていた聖さまは私を騙すために口にも出来ないような恥ずかしい行為をしてもおかしくはない。
だが、しかしそれは否定される。
「乃梨子さん」
「可南子、どうしたの?」
「急に会いたくなって、特に用事はないわ」
それだけを言うと可南子は教室に帰っていった。
このノートは本物ならなぜ実行されないんだ。
私は訳が分からなかった。
そして、もう一度シチュを書き込むことにした。
福沢祐巳。
放課後、二条乃梨子を迎えに教室まで来て薔薇の館に一緒に行く。
これでどうだろう。
私は確認する意味で簡単なシチュにし、ノートを閉じる。私ははやる気持ちを抑えて残りの授業に集中するのだった。
そして、放課後が訪れた。
昼の時とは違い先に祐巳さまの教室に向かい、その動向を伺うことにした。教室から生徒が出てきて、その中に祐巳さまの姿があった。だが、向かう先は私の教室の方向ではなく薔薇の館だった。
私が慌てて追いかけると見知った顔が前にあった。
「祥子さま」
「あら、乃梨子ちゃん。どうしたの? こんなところで」
「それを言うなら祥子さまは?」
「私は祐巳を迎えに来たのよ」
「私は志摩子さんです」
まあ、嘘だ。
もっともそんなことを話している間に、祐巳さまは見えないところまで行ってしまっていた。
まあ、祥子さまに取られるくらいならいいかと自己解決した。
このノートはどこかおかしい。聖さまや、可南子といった私がどうでもいいと思っている人は簡単に命令に従ってくれるのに、本命の祐巳さまにはまったく効かない。
本命に効かないんじゃ、こんな意味ないじゃないかと思ったが捨てはしなかった。
そして、薔薇の館。
私は帰りのシチュを設定しようとノートを取り出した。一体どういうシチュにしようか私が考えていると何やら薔薇の館の様子がおかしいことに気づいた。
周りを見渡すと。
「あら、乃梨子。面白そうなノート持っているのね」
そういう志摩子さんの手元にも。
「そういう志摩子だって」
そういう令さまの手元にも。
「あら、令ちゃんだって」
そういう由乃さまの手元にも。
「由乃ちゃんも人のこと言えるのかしら」
そういう祥子さまの手元にも。
ああ、なるほど。私は納得するわけだった。
このノートは矛盾が起きるとその効果が現れない。つまり私たちは自分の欲望をむき出しにしたシチュで互いのシチュを相殺していたというわけだ。
ならば私はこの薔薇の館にいる人間を私の虜にするまでだ、とペンを取るが考えていることは全員同じようで。
ペンを持った状態で膠着していた。
書き始めた人間は真っ先に餌食になる。
そんな膠着状態が何分続いたか分からなかったが、どこかに行っていた祐巳さまが戻ってきてとかれることになった。
「もうそろそろ終わりにしようか」
「そうだね」
と偽りの笑顔を浮かべて解散する私たち。
銀杏並木を歩きながらもそれぞれが出し抜く機会を狙っていた。だが、そこに共通の敵が現れた。
「祐巳ちゃーん」
「あっ、聖さま」
子犬のように駆けて行く祐巳さま。
その時に私たちの心は一つになっていた。
「ちょっと祐巳ちゃんが行っちゃうよ」
「キィー、何であんなナンパな女に」
「私の祐巳さんを」
「祐巳さんは私のものだよ」
「ここは誰かが祐巳さまのことを好きにして、聖さまに別れ話でも」
バッと全員がノートを取り出して文字を書く。
そう、みんなはこの時目先のことに捕らわれて本当の真実に気づけていなかった。まさに今がこの山百合会を掌握する絶好のチャンスだということに。
私は迷わず祥子さまの名前を記入する。
小笠原祥子。
二条乃梨子の奴隷になる。
そして、次の人物を記入しようとしたその時、私は不思議な感覚に捕らわれていた。おさげ髪の一学年先輩。病弱設定を覆したイケイケ女。祐巳さまの足元にも及ばないと思っていた彼女のことがなぜだかとても愛おしく感じられたのだった。もうこの人のためだったら死んでもいいと思えるくらいに。
「由乃さま」
私が由乃さまの足に縋りつくと、それを止めるように祥子さまが私の足にしがみつく。
「乃梨子ちゃん」
ああ、そういえば私は確かこの女のことを自分の奴隷にしたんだっけということを思い出して。
私は今何してるんだろう、とか色々疑問に思うこともあったのだけど、私はもう由乃さまがいればこの世界がどうなろうとしったことではないのだった。
「由乃さま、どうぞ私を召使のようにこき使ってください」
その由乃さまも志摩子さんの足にしがみついていて、その志摩子さんも令さまにしがみついていて、その令さまも祥子さまにしがみついていた。
それはまるで欲望の連鎖のようで。
かろうじて見上げれば、祐巳さまは聖さまと共にどこかに行ってしまうところで。
「ああ、由乃さま。大好きです」
私は涙を流しながら由乃さまのために一生この身を尽くそうと心に誓うのだった。
「お姉さまたちは?」
「見ないほうがいいよ。自分の欲に溺れた悲しい姿しかないからさ。祐巳ちゃんは見る必要ない」
「そうですか?」
「うん」
「それより今日はどこ行こうか?」
「聖さまと一緒ならどこでも」
「そっか。じゃあめくるめく大人の世界にでも」
聖のそんな悪戯な言葉に祐巳は赤くした顔を俯かせて、はにかんで頷くのだった。
「はい。優しくしてくださいね」
「りょーかい」
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