ウァレンティーヌスの悪戯
例えばテスト勉強しなきゃいけないのに部屋の掃除をしたくなるような。優先度の高いものをやろうとすると、そういうときに限って別なものをしたくなる。この方程式はどうやら小説を書くという行為にも当てはまるようで、ウァレンティーヌスの悪戯続きが書けてしまいました。続きは時間がかかるかもとか言っておきながら、いつものペースより早いという。ちなみに今回は少し長めで次回は短めになると思います。ページでいうと5ページ分。
「ねえ、笙子さん。知っていらっしゃる?」
「何を?」
知っていらっしゃると聞かれて知ってると答えられる人間は人の心が読めるエスパーか、相当のひねくれ者だろう。どちらにも属さない私はもちろんその知っていらっしゃるかもしれない内容を聞くのだった。
「これよ」
差し出されたのはリリアン瓦版。
高等部で発行されている校内新聞なのだけど、中等部でも密かに愛読しているものが多い、結構有名な新聞だった。
「山百合会のバレンタインデーのイベントで宝探しをやるんですって」
「宝探しか」
ぼんやりとそんなことを聞いたかもしれない。
校舎が離れているとはいえ、クラスに一人くらい耳の早い子がいて大体そういう子から噂が徐々に広まっていくのだ。
直接聞いたわけではなかったけど、その話は知っていた。
「それで?」
まさかそんなことのためにわざわざ私に話しかけにきたわけではないだろう。だってこの子たちはリリアン瓦版の話で何回か盛り上がったことはあったけど、一緒に行動をともにするほど仲が言いというわけではなかったからだった。
「私たち、当日こっそり見に行こうって相談しているの。だけど、人数が私たち二人だけでは心もとない気がして。それで笙子さんも一緒にいかがかしらと思って」
「私も?」
ありきたりなポーズだけど、私は髪の毛をいじっていた人差し指を、自分の鼻に向けて確認した。
「ええ」
これは願ってもいないチャンスだった。
私はもともとこのイベントに興味があったし、だけど一人ではと思っていたところにこの二人が現れてくれたのだった。
「そうね、それは楽しそうだわ」
私は頷いた。
「じゃあ決まりね」
二人は手を叩くと、明日の段取りを私に話して去っていった。
私は多分、そこに何かあると思っていたのだった。私を夢中にさせてくれる、ワクワクするような何か。高等部は、そんなものが満ち溢れている場所だと信じて疑わなかったのだ。
私は参加者のふりをして堂々と回ってきたプリントを受け取った。それは申し込み用紙であり、参加者のルール説明が書いてあった。
私は、申込用紙の名前の欄に姉の名前を書き込んだ。ちょっとした悪戯のつもりだった。あの堅物が参加したなんて、とこれをみた誰かが驚くのを想像するのは楽しかった。
優勝者にはブゥトンとの半日デート券が授与されるとか。もっとも私にとって前に立っている三人と遊びにいく姿を想像することは出来なかった。まったく接点のない私に、彼女たちはテレビの中の女優となんら変わりがなかった。もっとも私にその権利はないのだけど。
「スタートです」
ピーという笛の音とともにゲームが開始された。
一目散に探しにいく人、蕾の妹の後をつけようとする人、とりあえず薔薇様にお近づきになろうとしている人など様々だった。
私にカードのあてなどもちろんなく、とりあえず一緒にきた二人と別れて行くあてもなく歩き始めた。
歩いている途中に白薔薇の蕾の妹を見かけたが、相変わらずおまけを従えていた。お気の毒に。
「お気の毒に」
私の心の声を代弁するかのような言葉が耳に届いて驚いて振り返った。
「ごめん、驚かせちゃったかな」
振り返るとそこにはカメラを構えた人が立っていた。話を聞くとその人はかの有名な武嶋蔦子さまだということが分かり、私も自然と話すことが出来た。
ただ残念ながらやっぱりカメラを向けられてしまうと、どうしても意識してしまって顔がこわばってしまう。
そのことは蔦子さまにも指摘されたのだけど改善できるわけもなかった。結局問題は私の中にあるのだ。
だけど、どうしてだか分からないけどこの人なら撮られてもいいと思った。
いや、もっと積極的な気持ち。
撮って欲しいと思っていた。
だから気づけば頼んでいた。
「あの。蔦子さん。いつか、私を見かけたら。それで、思わずシャッターを切りたくなるくらいいい私だったら、断らずに撮ってもらえませんか?」
「いいけど?」
「私、それもらって宝物にする。十代の、唯一のポートレートとして飾っておくの」
「大袈裟な」
蔦子さまはそう笑っていたけれど私は結構本気だったりした。
校舎に戻るとすでに四時半で後二十分くらいでゲームが終わる時間になっていた。結局私はあんなに楽しみにしていた宝探しにほとんど参加していなかったことになる。
「お待ちなさい」
せめて結果だけ聞こうと中庭に向かおうとすると、突然ヘアバンドをした黄薔薇様こと鳥居江利子様に声をかけられた。
もちろん私が黄薔薇様のことを知っているのは当たり前だけど、黄薔薇様が私のことを知っているはずがない。ゆえに導き出される答えは一つしかなかった。
ばれた。
「その制服だけど」
その言葉が私の呪縛を解いた。
私はきびすを返して駆け出した。
「お待ちなさい、あなた」
待ちなさいと言われて待つ人間はおそらく相当の天然か、ロボット三原則をきちんと守っている人型ロボットくらいだろう。
「なぜ逃げるの?」
そう後ろから問われて私は自分でもなぜ逃げているのか分からなかった。
私が中等部の生徒だということがバレれば職員室に呼ばれて説教を受けなくてはいけなくなるからだろうか。
いや、
多分、私が逃げているのは捕まったら姉に迷惑をかけてしまうからだった。ちょっとした悪戯のつもりだったのに、こんなことで受験に影響したらどうしよう。
人並みをかきわけ逃げる。
しかし、私は校舎と校舎のつなぎ目のほんの小さな段差に足をとられて、そのままバランスを崩した。
ああ、自分はこれから倒れるんだな。
やけに自分を客観的にみている自分がいて、これならまだ大人しく捕まった方が痛くなくてよかったな、なんて思っていると。
「笙子」
と誰かが私を呼ぶ声がした。
そして、前に現れた誰かの胸に思いっきり飛び込んでいた。
「お姉ちゃん」
顔を上げるとそこにはお姉ちゃんがいた。
受験で学校に寄るなんて聞いていなかったのに。
「何をしてらっしゃるの、江利子さん」
幾分、きつい口調でお姉ちゃんは黄薔薇様に尋ねた。
「制服のことでちょっと注意しようと思っただけよ。だけどあなたが親しくしている生徒ならあなたに任せることにいたしましょう」
黄薔薇様は私のセーラーカラーにそっと一撫でしてから離れた。お姉ちゃんに何か言っていたがそれは私に聞き取れないくらい小さな声だった。
かろうじて興味を持った、という単語だけ聞き取ることが出来た。
「何してるの?」
「ごめん」
「まったく私の制服なんか着ちゃって、しかも」
とお姉ちゃんは私のセーラーカラーに触れると洗濯済みのタグを取った。
「あ」
「馬鹿だね、笙子は」
「うん。でも、お姉ちゃんは?」
今日は学校へ来ない予定だったはず。するとお姉ちゃんはその場で一つ伸びをした。
「何か、馬鹿になりたくなったんだ。試験終わって、そのままうちに直行してもいいのに、どうしてだろう学校にきたくなった。バレンタインデーなしで三年間終わると思ったら少し虚しくなったのかな」
私にはお姉ちゃんがそれを答えるのに一大決心をしているように思えてならなかった。真面目で勉強一筋だった学校生活に、最後の華を添えるかのように。
「ねえ!」
だからかもしれない。
「ならバレンタインイベント見に行こうよ。カードも見つけてないし、行っても何もないかもしれないけど、ちょっとは気晴らしになるかもだよ」
「……そうだね。そうしますか」
何でそんなことを言ったのか、私にも分からなかった。ただ私はお姉ちゃんに高校生活が勉強だけの灰色のまま終わって欲しくなかったのかもしれない。
中庭にはすでに人が集まっていた。
薔薇の館の前には蕾と薔薇様が立っていた。その中にさっき私を追いかけてきた黄薔薇様もいて私達の方を見ていた。
偶然かなとも思ったけど。
私に向かって鼻の辺りに人差し指を立てている。私も同じように人差し指を、自分の鼻に向けて確認した。すると、黄薔薇様ゆっくりと頷いた。どうやら用があるのは隣に立っているお姉ちゃんじゃなくて私らしい。なおも黄薔薇様はあいている方の手を私に見せるようにポンポンとポケットの辺りを叩いていた。
初め何をしているんだろうと思ったけど、どうやら私にポケットを確認しろと言っているみたいだった。
そして、私はポケットの中に手を入れた。
中に何か入っていた。お姉ちゃんの制服だし、出し忘れたのかなと思い私はそのカードを何の躊躇することなく顔の前まで引き抜いたのだった。
「笙子!」
と姉が慌てて忠告するも虚しく。
すでに周りはざわついている。
「あっと黄色のカードを見つけ出した生徒が現れたようです」
と新聞部の人の声が私の耳にも届いて。
このカードが黄薔薇の蕾のバレンタインイベントのカードだということにようやく私は気づいたのだった。
どうしたことか。
私は参加者でないし、高等部の生徒ですらないのに。お姉ちゃんが機転を利かせて一緒に前まで来てくれて、私が中等部の生徒だということを周りにばれないように説明してくれた。もしこんなことがばれて三枚あるカードのうち一枚を無駄にしてしまったとあれば私はもう進路を変更して一般の学校へ受験しなければいけない。それを避けるためにお姉ちゃんは二人で同時に見つけたということにして、権利のない私の代わりに黄薔薇の蕾とのデートすると言い出したのだった。
「そう言えば克美様は参加申し込み書を出しましたか?」
「何それ?」
「それがないと……」
「それなら私が出しておいたけど」
悪戯のつもりで出した申し込み書がまさかこんな形で役に立つとは思わなかった。
「ああ、はい。確かにありますね」
「どうやら大丈夫のようね」
「はい」
結局、黄薔薇の蕾とのデート権は堅物で有名のお姉ちゃんが受け取ることになったのだった。
というかどうして私のポケットにカードが入っていたのか。思い当たる節なんてあの時のこと以外思いつきもしなかった。
それはお姉ちゃんも同じようで。
イベントが終わった後、蕾と言い争っている黄薔薇様の元へと向かっていくのだった。
補足
リリアンの制服ってポケットあったか微妙なんですが、なかった場合はコートでも着ていることにしてください(´・ω・`)
「何を?」
知っていらっしゃると聞かれて知ってると答えられる人間は人の心が読めるエスパーか、相当のひねくれ者だろう。どちらにも属さない私はもちろんその知っていらっしゃるかもしれない内容を聞くのだった。
「これよ」
差し出されたのはリリアン瓦版。
高等部で発行されている校内新聞なのだけど、中等部でも密かに愛読しているものが多い、結構有名な新聞だった。
「山百合会のバレンタインデーのイベントで宝探しをやるんですって」
「宝探しか」
ぼんやりとそんなことを聞いたかもしれない。
校舎が離れているとはいえ、クラスに一人くらい耳の早い子がいて大体そういう子から噂が徐々に広まっていくのだ。
直接聞いたわけではなかったけど、その話は知っていた。
「それで?」
まさかそんなことのためにわざわざ私に話しかけにきたわけではないだろう。だってこの子たちはリリアン瓦版の話で何回か盛り上がったことはあったけど、一緒に行動をともにするほど仲が言いというわけではなかったからだった。
「私たち、当日こっそり見に行こうって相談しているの。だけど、人数が私たち二人だけでは心もとない気がして。それで笙子さんも一緒にいかがかしらと思って」
「私も?」
ありきたりなポーズだけど、私は髪の毛をいじっていた人差し指を、自分の鼻に向けて確認した。
「ええ」
これは願ってもいないチャンスだった。
私はもともとこのイベントに興味があったし、だけど一人ではと思っていたところにこの二人が現れてくれたのだった。
「そうね、それは楽しそうだわ」
私は頷いた。
「じゃあ決まりね」
二人は手を叩くと、明日の段取りを私に話して去っていった。
私は多分、そこに何かあると思っていたのだった。私を夢中にさせてくれる、ワクワクするような何か。高等部は、そんなものが満ち溢れている場所だと信じて疑わなかったのだ。
私は参加者のふりをして堂々と回ってきたプリントを受け取った。それは申し込み用紙であり、参加者のルール説明が書いてあった。
私は、申込用紙の名前の欄に姉の名前を書き込んだ。ちょっとした悪戯のつもりだった。あの堅物が参加したなんて、とこれをみた誰かが驚くのを想像するのは楽しかった。
優勝者にはブゥトンとの半日デート券が授与されるとか。もっとも私にとって前に立っている三人と遊びにいく姿を想像することは出来なかった。まったく接点のない私に、彼女たちはテレビの中の女優となんら変わりがなかった。もっとも私にその権利はないのだけど。
「スタートです」
ピーという笛の音とともにゲームが開始された。
一目散に探しにいく人、蕾の妹の後をつけようとする人、とりあえず薔薇様にお近づきになろうとしている人など様々だった。
私にカードのあてなどもちろんなく、とりあえず一緒にきた二人と別れて行くあてもなく歩き始めた。
歩いている途中に白薔薇の蕾の妹を見かけたが、相変わらずおまけを従えていた。お気の毒に。
「お気の毒に」
私の心の声を代弁するかのような言葉が耳に届いて驚いて振り返った。
「ごめん、驚かせちゃったかな」
振り返るとそこにはカメラを構えた人が立っていた。話を聞くとその人はかの有名な武嶋蔦子さまだということが分かり、私も自然と話すことが出来た。
ただ残念ながらやっぱりカメラを向けられてしまうと、どうしても意識してしまって顔がこわばってしまう。
そのことは蔦子さまにも指摘されたのだけど改善できるわけもなかった。結局問題は私の中にあるのだ。
だけど、どうしてだか分からないけどこの人なら撮られてもいいと思った。
いや、もっと積極的な気持ち。
撮って欲しいと思っていた。
だから気づけば頼んでいた。
「あの。蔦子さん。いつか、私を見かけたら。それで、思わずシャッターを切りたくなるくらいいい私だったら、断らずに撮ってもらえませんか?」
「いいけど?」
「私、それもらって宝物にする。十代の、唯一のポートレートとして飾っておくの」
「大袈裟な」
蔦子さまはそう笑っていたけれど私は結構本気だったりした。
校舎に戻るとすでに四時半で後二十分くらいでゲームが終わる時間になっていた。結局私はあんなに楽しみにしていた宝探しにほとんど参加していなかったことになる。
「お待ちなさい」
せめて結果だけ聞こうと中庭に向かおうとすると、突然ヘアバンドをした黄薔薇様こと鳥居江利子様に声をかけられた。
もちろん私が黄薔薇様のことを知っているのは当たり前だけど、黄薔薇様が私のことを知っているはずがない。ゆえに導き出される答えは一つしかなかった。
ばれた。
「その制服だけど」
その言葉が私の呪縛を解いた。
私はきびすを返して駆け出した。
「お待ちなさい、あなた」
待ちなさいと言われて待つ人間はおそらく相当の天然か、ロボット三原則をきちんと守っている人型ロボットくらいだろう。
「なぜ逃げるの?」
そう後ろから問われて私は自分でもなぜ逃げているのか分からなかった。
私が中等部の生徒だということがバレれば職員室に呼ばれて説教を受けなくてはいけなくなるからだろうか。
いや、
多分、私が逃げているのは捕まったら姉に迷惑をかけてしまうからだった。ちょっとした悪戯のつもりだったのに、こんなことで受験に影響したらどうしよう。
人並みをかきわけ逃げる。
しかし、私は校舎と校舎のつなぎ目のほんの小さな段差に足をとられて、そのままバランスを崩した。
ああ、自分はこれから倒れるんだな。
やけに自分を客観的にみている自分がいて、これならまだ大人しく捕まった方が痛くなくてよかったな、なんて思っていると。
「笙子」
と誰かが私を呼ぶ声がした。
そして、前に現れた誰かの胸に思いっきり飛び込んでいた。
「お姉ちゃん」
顔を上げるとそこにはお姉ちゃんがいた。
受験で学校に寄るなんて聞いていなかったのに。
「何をしてらっしゃるの、江利子さん」
幾分、きつい口調でお姉ちゃんは黄薔薇様に尋ねた。
「制服のことでちょっと注意しようと思っただけよ。だけどあなたが親しくしている生徒ならあなたに任せることにいたしましょう」
黄薔薇様は私のセーラーカラーにそっと一撫でしてから離れた。お姉ちゃんに何か言っていたがそれは私に聞き取れないくらい小さな声だった。
かろうじて興味を持った、という単語だけ聞き取ることが出来た。
「何してるの?」
「ごめん」
「まったく私の制服なんか着ちゃって、しかも」
とお姉ちゃんは私のセーラーカラーに触れると洗濯済みのタグを取った。
「あ」
「馬鹿だね、笙子は」
「うん。でも、お姉ちゃんは?」
今日は学校へ来ない予定だったはず。するとお姉ちゃんはその場で一つ伸びをした。
「何か、馬鹿になりたくなったんだ。試験終わって、そのままうちに直行してもいいのに、どうしてだろう学校にきたくなった。バレンタインデーなしで三年間終わると思ったら少し虚しくなったのかな」
私にはお姉ちゃんがそれを答えるのに一大決心をしているように思えてならなかった。真面目で勉強一筋だった学校生活に、最後の華を添えるかのように。
「ねえ!」
だからかもしれない。
「ならバレンタインイベント見に行こうよ。カードも見つけてないし、行っても何もないかもしれないけど、ちょっとは気晴らしになるかもだよ」
「……そうだね。そうしますか」
何でそんなことを言ったのか、私にも分からなかった。ただ私はお姉ちゃんに高校生活が勉強だけの灰色のまま終わって欲しくなかったのかもしれない。
中庭にはすでに人が集まっていた。
薔薇の館の前には蕾と薔薇様が立っていた。その中にさっき私を追いかけてきた黄薔薇様もいて私達の方を見ていた。
偶然かなとも思ったけど。
私に向かって鼻の辺りに人差し指を立てている。私も同じように人差し指を、自分の鼻に向けて確認した。すると、黄薔薇様ゆっくりと頷いた。どうやら用があるのは隣に立っているお姉ちゃんじゃなくて私らしい。なおも黄薔薇様はあいている方の手を私に見せるようにポンポンとポケットの辺りを叩いていた。
初め何をしているんだろうと思ったけど、どうやら私にポケットを確認しろと言っているみたいだった。
そして、私はポケットの中に手を入れた。
中に何か入っていた。お姉ちゃんの制服だし、出し忘れたのかなと思い私はそのカードを何の躊躇することなく顔の前まで引き抜いたのだった。
「笙子!」
と姉が慌てて忠告するも虚しく。
すでに周りはざわついている。
「あっと黄色のカードを見つけ出した生徒が現れたようです」
と新聞部の人の声が私の耳にも届いて。
このカードが黄薔薇の蕾のバレンタインイベントのカードだということにようやく私は気づいたのだった。
どうしたことか。
私は参加者でないし、高等部の生徒ですらないのに。お姉ちゃんが機転を利かせて一緒に前まで来てくれて、私が中等部の生徒だということを周りにばれないように説明してくれた。もしこんなことがばれて三枚あるカードのうち一枚を無駄にしてしまったとあれば私はもう進路を変更して一般の学校へ受験しなければいけない。それを避けるためにお姉ちゃんは二人で同時に見つけたということにして、権利のない私の代わりに黄薔薇の蕾とのデートすると言い出したのだった。
「そう言えば克美様は参加申し込み書を出しましたか?」
「何それ?」
「それがないと……」
「それなら私が出しておいたけど」
悪戯のつもりで出した申し込み書がまさかこんな形で役に立つとは思わなかった。
「ああ、はい。確かにありますね」
「どうやら大丈夫のようね」
「はい」
結局、黄薔薇の蕾とのデート権は堅物で有名のお姉ちゃんが受け取ることになったのだった。
というかどうして私のポケットにカードが入っていたのか。思い当たる節なんてあの時のこと以外思いつきもしなかった。
それはお姉ちゃんも同じようで。
イベントが終わった後、蕾と言い争っている黄薔薇様の元へと向かっていくのだった。
補足
リリアンの制服ってポケットあったか微妙なんですが、なかった場合はコートでも着ていることにしてください(´・ω・`)
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コメント
ポケット
No title
コメントありがとうございます。これからも楽しんでいただけるよう頑張りたいと思います。
制服にポケットありましたか。リリアンみたいにワンピース型の制服って珍しいから、どうだろうと思ったけど、やっぱり原作はきちんと読まないとダメですね。
わざわざありがとうございました。
制服にポケットありましたか。リリアンみたいにワンピース型の制服って珍しいから、どうだろうと思ったけど、やっぱり原作はきちんと読まないとダメですね。
わざわざありがとうございました。
コメントの投稿
いつもSSを楽しませていただいてます。
さて、リリアン制服には、少なくともスカートにポケットがあるのは間違いないです。
「写真は制服のポケットに入っている。スカートの襞と襞の間にある内ポケット。表面からは見えない場所。」(いとしき歳月(前編)P.33)
とのことですので。