藤堂祐巳(イフ)
藤堂祐巳(イフ)です。もしも祥子様の妹に祐巳がなっていたら。
祐巳が祥子の妹になってからはや一ヶ月が過ぎた。ようやく祐巳も祥子のことをお姉さまと呼ぶようになったのだが、にも関わらず今日の祥子は不機嫌な表情を浮かべてその状況を見つめていた。
「祐巳、タイが曲がっている」
そう言って志摩子が祐巳のタイを直していた。何度志摩子に注意しても一向にやめようとしない。
「あ、ごめん」
「じっとして」
「うん」
祥子が祐巳を妹にしたことは皮肉にも志摩子と祐巳の距離を近づける結果になってしまったのだった。もちろん喧嘩はすることは多いが、昔のようにギスギスすることは少なくなっていた。
祥子にはそれが気に食わなかった。祐巳のスールは自分のはずなのに、祐巳の姉として志摩子には何をとっても敵いそうになかった。
祐巳のことをよく知っているのは当たり前。なんせ生まれてから今までずっと一緒に過ごしてきたのだから。祐巳のことを理解しているのは当たり前。誰よりも祐巳のことを思っているのだから。
だけど、それで「はいそうですか」と納得できるかというとそんなわけなかった。
「志摩子!」
「はい」
「いつも言ってるでしょう? 祐巳のスールは私なのだからそういうことは」
「祥子様。ですが、私も祐巳の姉です」
「私も志摩子にやってもらった方が自然でいいです」
「な! 祐巳、あなたまで」
祐巳からの思わぬ援護射撃に祥子はたじろぐ。
「そ、そもそもあなた達は双子でしょう」
「はい。でも先に生まれたのは私ですから、それにいつも私が姉としての役割を引き受けてきましたし」
「私も志摩子は自分の姉だと思っています。あっ、もちろん祥子様もですよ」
祐巳が祥子のことを姉だと思っているだとか志摩子と仲が良いだとか、この際むしろそんなことはどうだってよかった。祥子は祐巳を妹にしたら構ってあげたかった。世話を焼いて「しょうがない子ね」とフォローしてあげたり、そんな姉妹関係を頭に描いていた。だけど現実は実に残酷で。
祥子が姉らしいことをしてあげようとすると、まるで先回りしているかのようにそこには志摩子がすっぽりと納まっているのだった。
「志摩子! 私と勝負なさい」
「はい?」
「もし私が勝ったら今後一切私の邪魔をしないこと、いいわね!」
祥子のあまりの剣幕に戸惑っていたが、どうも首を立てに振らないといけないようなきがして志摩子はしょうがなく頷いた。
「では、私が勝った場合は?」
「私は今後一切志摩子の邪魔はしないわ」
「そうですか。では勝負の方法は私が決めていいですか?」
「構わないわ」
祥子は例えどんな勝負でも負けない自信があった。
それが志摩子の策略だということも気づかずに。
「では、じゃんけんにしましょう」
「なんでじゃんけんなんて」
そんな天に運を任せるような勝負にしたのだろうか、祥子は疑問だった。
「もしかして勝つ自信がないの」
祥子はわざと挑発して見せたが志摩子は冷静に首を振った。
「いいえ、逆です。祥子様は絶対に私には勝てません」
志摩子の妙な自信が祥子にとっては不気味だったが、そもそもじゃんけんなんて運なんだからどんな知略を駆使しても大して戦況が変わるわけでもない、と祥子はその不安を振り払った。
「じゃあやりましょう」
「違います」
祥子が手を前に出すと志摩子は言った。
「じゃんけんは私とやるんじゃありません。私と祥子様がそれぞれ祐巳と一回勝負して高い手だった方の勝ちということにしましょう」
何でわざわざそんなめんどくさいことをするのだろうと祥子は深く考えなかった。
「まあ、いいわ。じゃあ祐巳やりましょう」
「はい」
祥子と祐巳がお互い手を前に出して準備が整った。
「じゃーんけん」
ぽん、で手が出される。
両方拳を握っている。
「引き分けですね。これで私が祐巳に勝てば勝ち、負ければ負け、引き分けならもう一度ですね。もっともそんなことはないと思いますが」
「やけに自信があるのね」
「ええ。祐巳にじゃんけんで負けたことないんです」
と、天使のような志摩子の微笑がこの時だけ祥子にはまるで悪魔のように見えた。
「じゃあ祐巳やりましょう」
志摩子と祐巳がお互い手を前に出しす。
そして、いざ祐巳が始めようとしたその時何かを思い出したかのように志摩子が一言祐巳に呟いた。
「そうそう、私はグーを出すことにしたから」
「えっ?」
祐巳は慌てる。
この方法ははっきり言ってほとんどの場合意味をなさない。何も考えずにただ手を出せば三分の一で勝てるのだから。
だけど、祐巳のように考え込んでしまうと志摩子の思う壺だった。
「じゃあいくわよ。じゃーんけん」
「わっわ、待って」
ぽんと、同時に出された手は志摩子がグーで祐巳がチョキだった。
「私の勝ちですね」
「祐巳ー。なんであなたはチョキを出すのよ。さっき志摩子がグーを出すって言ったじゃない」
「だってグーならパーで勝てるけど、志摩子だからその裏をかいてパーに勝てるチョキを出してくるかもしれないからグーを出せば勝てるけど、さらにその裏をかいてパーをだしてくるかもしれないから……」
「もういいわ」
「知ってました? 祐巳って焦った時大体チョキ出すんですよ」
志摩子が勝ち誇ったように祥子の耳元で囁いた。
「志摩子! そんなの卑怯よ」
「いえ、頭を使うことも大事なことですよ」
「彼を知り、己を知れば、百戦して危うからずだね」
「ふふ、そうね」
「祐巳、あなたは負けてる方なのよ。何でそんな満足そうに笑ってるのよ。あなたはもっと自分のことを知ることから始めなさい!」
祥子の虚しい響きが今日もまた薔薇の館に響くのだった。
「祐巳、タイが曲がっている」
そう言って志摩子が祐巳のタイを直していた。何度志摩子に注意しても一向にやめようとしない。
「あ、ごめん」
「じっとして」
「うん」
祥子が祐巳を妹にしたことは皮肉にも志摩子と祐巳の距離を近づける結果になってしまったのだった。もちろん喧嘩はすることは多いが、昔のようにギスギスすることは少なくなっていた。
祥子にはそれが気に食わなかった。祐巳のスールは自分のはずなのに、祐巳の姉として志摩子には何をとっても敵いそうになかった。
祐巳のことをよく知っているのは当たり前。なんせ生まれてから今までずっと一緒に過ごしてきたのだから。祐巳のことを理解しているのは当たり前。誰よりも祐巳のことを思っているのだから。
だけど、それで「はいそうですか」と納得できるかというとそんなわけなかった。
「志摩子!」
「はい」
「いつも言ってるでしょう? 祐巳のスールは私なのだからそういうことは」
「祥子様。ですが、私も祐巳の姉です」
「私も志摩子にやってもらった方が自然でいいです」
「な! 祐巳、あなたまで」
祐巳からの思わぬ援護射撃に祥子はたじろぐ。
「そ、そもそもあなた達は双子でしょう」
「はい。でも先に生まれたのは私ですから、それにいつも私が姉としての役割を引き受けてきましたし」
「私も志摩子は自分の姉だと思っています。あっ、もちろん祥子様もですよ」
祐巳が祥子のことを姉だと思っているだとか志摩子と仲が良いだとか、この際むしろそんなことはどうだってよかった。祥子は祐巳を妹にしたら構ってあげたかった。世話を焼いて「しょうがない子ね」とフォローしてあげたり、そんな姉妹関係を頭に描いていた。だけど現実は実に残酷で。
祥子が姉らしいことをしてあげようとすると、まるで先回りしているかのようにそこには志摩子がすっぽりと納まっているのだった。
「志摩子! 私と勝負なさい」
「はい?」
「もし私が勝ったら今後一切私の邪魔をしないこと、いいわね!」
祥子のあまりの剣幕に戸惑っていたが、どうも首を立てに振らないといけないようなきがして志摩子はしょうがなく頷いた。
「では、私が勝った場合は?」
「私は今後一切志摩子の邪魔はしないわ」
「そうですか。では勝負の方法は私が決めていいですか?」
「構わないわ」
祥子は例えどんな勝負でも負けない自信があった。
それが志摩子の策略だということも気づかずに。
「では、じゃんけんにしましょう」
「なんでじゃんけんなんて」
そんな天に運を任せるような勝負にしたのだろうか、祥子は疑問だった。
「もしかして勝つ自信がないの」
祥子はわざと挑発して見せたが志摩子は冷静に首を振った。
「いいえ、逆です。祥子様は絶対に私には勝てません」
志摩子の妙な自信が祥子にとっては不気味だったが、そもそもじゃんけんなんて運なんだからどんな知略を駆使しても大して戦況が変わるわけでもない、と祥子はその不安を振り払った。
「じゃあやりましょう」
「違います」
祥子が手を前に出すと志摩子は言った。
「じゃんけんは私とやるんじゃありません。私と祥子様がそれぞれ祐巳と一回勝負して高い手だった方の勝ちということにしましょう」
何でわざわざそんなめんどくさいことをするのだろうと祥子は深く考えなかった。
「まあ、いいわ。じゃあ祐巳やりましょう」
「はい」
祥子と祐巳がお互い手を前に出して準備が整った。
「じゃーんけん」
ぽん、で手が出される。
両方拳を握っている。
「引き分けですね。これで私が祐巳に勝てば勝ち、負ければ負け、引き分けならもう一度ですね。もっともそんなことはないと思いますが」
「やけに自信があるのね」
「ええ。祐巳にじゃんけんで負けたことないんです」
と、天使のような志摩子の微笑がこの時だけ祥子にはまるで悪魔のように見えた。
「じゃあ祐巳やりましょう」
志摩子と祐巳がお互い手を前に出しす。
そして、いざ祐巳が始めようとしたその時何かを思い出したかのように志摩子が一言祐巳に呟いた。
「そうそう、私はグーを出すことにしたから」
「えっ?」
祐巳は慌てる。
この方法ははっきり言ってほとんどの場合意味をなさない。何も考えずにただ手を出せば三分の一で勝てるのだから。
だけど、祐巳のように考え込んでしまうと志摩子の思う壺だった。
「じゃあいくわよ。じゃーんけん」
「わっわ、待って」
ぽんと、同時に出された手は志摩子がグーで祐巳がチョキだった。
「私の勝ちですね」
「祐巳ー。なんであなたはチョキを出すのよ。さっき志摩子がグーを出すって言ったじゃない」
「だってグーならパーで勝てるけど、志摩子だからその裏をかいてパーに勝てるチョキを出してくるかもしれないからグーを出せば勝てるけど、さらにその裏をかいてパーをだしてくるかもしれないから……」
「もういいわ」
「知ってました? 祐巳って焦った時大体チョキ出すんですよ」
志摩子が勝ち誇ったように祥子の耳元で囁いた。
「志摩子! そんなの卑怯よ」
「いえ、頭を使うことも大事なことですよ」
「彼を知り、己を知れば、百戦して危うからずだね」
「ふふ、そうね」
「祐巳、あなたは負けてる方なのよ。何でそんな満足そうに笑ってるのよ。あなたはもっと自分のことを知ることから始めなさい!」
祥子の虚しい響きが今日もまた薔薇の館に響くのだった。
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テーマ : 自作小説(二次創作) - ジャンル : 小説・文学
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