シロイカゲ
シロイカゲ続編。志摩子の配置は予期せずというか、まあこの場所しかないだろうと。なんせ中の人がアカイイト主人公の桂さんのお友達ですもんね。
「ふふ、面白いのね」
今日あったリリアンでの出来事を話終えるとケータイの先の主が笑い声を上げていた。
前の学校で一番仲が良かった私の親友。
「志摩子は他人事だから、そうやって笑えるんだよ」
「でも、友達はできたんでしょう? なら良かったじゃない。ちょっと心配してたんだから。もしかしたら祐巳は私のことが忘れられなくて友達作れないんじゃないかって」
「何それ。それじゃまるで私が志摩子のこと好きみたいじゃん」
「あれ違った?」
「どうだろうね?」
こんな冗談、リリアンじゃ言えない。やっぱり志摩子と喋るのは落ち着くな、と祐巳は思いながら時間も遅くなってきたので、別れを言って電話を切った。
志摩子は早寝早起きだったので邪魔になったらわるいだろうと思ってのことだった。
そして、祐巳はその夜夢をみた。
走っているのは自分で間違いないはずなのに。
だけど何かが変。
目線が低い。
歩幅も狭い。
その理由は祐巳が子供になってしまったからだった。
リリアン女学園の銀杏並木を全速力で駆け抜けている。
手を引いているのは知らない人。
その人は整った顔立ちでヘアバンドを頭にして、なぜか急いで走っていた。
誰かに追われているのだろうか。
とても現実的な夢だった。
それはまるで祐巳が昔体験した出来事を見せているかのように。
そして、正門のところまで行くとその人は祐巳を校門の向こうへ思い切り突き飛ばした。するとその人は安心したようにほっと一息をついていた。
祐巳が求めるように手を伸ばすと、ゆっくりと首を横に振って「行きなさい」そう呟いた。
祐巳はその人の命令に従ってリリアン女学園とは反対の方へまた走っていった。
それを見送ってヘアバンドをつけた女の人は溜め息をつく。
「さあ、これであなたの相手になってあげられるわね」
振り返った先にこの世のものとは思えない何かがいた。目を赤々と光らせて、手をまるで狼のように尖らせて、牙を吸血鬼のように突き出していた。
「かかってきなさい。私かあなたの命が尽きるまで。どうせ私たちに時間はたっぷりあるのだから」
そう言ってその人が手から蝶を出したところで祐巳は意識が遠のいていくのを感じて、目が覚めた。
祐巳が起き上がるとカーテンからは太陽の光が差し込んでいる。
「今の夢は一体なに?」
夢の中の祐巳はまだ三歳にもなっていないような小さい子供だった。だから祐巳が覚えていないのも仕方ないのかもしれないが、それが果たして夢だったのか記憶の再現だったのか分からなかった。
祐巳は胸を押さえた。
心臓が鳴っている。
だけど、この心臓の高鳴りは決して不快感を与えるような、そんな鼓動ではなかった。
静かに心の奥深くをくすぐるように鳴る鼓動はむしろ幸せにしてくれるような、そんな高鳴りだった。
次の日、桂さんや蔦子さんがリリアンの常識ということで山百合会のメンバーを教えてくれた。紅薔薇様に水野蓉子様、その蕾に小笠原祥子様。白薔薇様に佐藤聖様、その蕾に久保栞様。黄薔薇様に二年生の支倉令様、その妹に島津由乃さんの計六人で運営しているということだった。
「へー」
写真も見せてもらったが、夢に出てきた人ではなかった。
「そういえば蔦子さんは写真部だよね」
「そうだね」
「一杯写真撮ってるよね?」
「撮ってるね」
「それじゃあこの学校の中にヘアバンドつけている人っているか知ってる?」
どうしても夢の中に出てきた人のことが忘れられなかった。何か忘れてはいけないことを忘れてしまっているような感覚。
「ヘアバンド?」
んー、と蔦子さんは腕を組んで考えていたがやがてお手上げというように息を漏らした。
「知らないな。ヘアバンドをしているなんて珍しいから、いれば絶対に覚えてると思うんだけどね」
「そっか」
祐巳は自分で聞いておきながら納得していた。
あの夢で出てきた私の年齢はどう見ても物心つく前の年齢で三歳にも満たないころだろう。そんな時にこのリリアンの制服を着ていたのだから。
「あ」
そこまで思って祐巳は思いつく。
「ねえ、蔦子さん。十年以上前のリリアンの生徒の写真って残ってないかな」
「残ってないこともないけど、少ないよ?」
「見せてくれない?」
「それなら卒業写真にすればいいんじゃない?」
と、桂さんが提案した。
写真部の偏りが出ている写真より卒業した全ての学生が写っている卒業写真を見たほうが確実で手っ取り早い。
「そうだね」
卒業写真は図書室の貸し出し禁止の場所に置いてある。理由と使い道を書いた紙を出して承認されないとみれないのだが、そこは蔦子さんの裏ルートに頼って祐巳はどうにか、その日の放課後に図書室で卒業写真を見ることができた。
「んー」
一枚一枚ページをめくっていく。
もし、あの人が十三年前から十六年前の卒業アルバムに写っていればあの夢は祐巳の子供の頃の記憶だということになる。
時間をかけて一ページを隅から隅まで見回した。
「ふう」
そして、最後のページを見終えてパタンと卒業アルバムを閉じたころには辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
結局、あの人を卒業アルバムの中から見つけることはできなかった。
「うわー、早く帰らないとな」
独り言をいいながら祐巳が立ち上がったその時、
リン
鈴の音が鳴る。
今日あったリリアンでの出来事を話終えるとケータイの先の主が笑い声を上げていた。
前の学校で一番仲が良かった私の親友。
「志摩子は他人事だから、そうやって笑えるんだよ」
「でも、友達はできたんでしょう? なら良かったじゃない。ちょっと心配してたんだから。もしかしたら祐巳は私のことが忘れられなくて友達作れないんじゃないかって」
「何それ。それじゃまるで私が志摩子のこと好きみたいじゃん」
「あれ違った?」
「どうだろうね?」
こんな冗談、リリアンじゃ言えない。やっぱり志摩子と喋るのは落ち着くな、と祐巳は思いながら時間も遅くなってきたので、別れを言って電話を切った。
志摩子は早寝早起きだったので邪魔になったらわるいだろうと思ってのことだった。
そして、祐巳はその夜夢をみた。
走っているのは自分で間違いないはずなのに。
だけど何かが変。
目線が低い。
歩幅も狭い。
その理由は祐巳が子供になってしまったからだった。
リリアン女学園の銀杏並木を全速力で駆け抜けている。
手を引いているのは知らない人。
その人は整った顔立ちでヘアバンドを頭にして、なぜか急いで走っていた。
誰かに追われているのだろうか。
とても現実的な夢だった。
それはまるで祐巳が昔体験した出来事を見せているかのように。
そして、正門のところまで行くとその人は祐巳を校門の向こうへ思い切り突き飛ばした。するとその人は安心したようにほっと一息をついていた。
祐巳が求めるように手を伸ばすと、ゆっくりと首を横に振って「行きなさい」そう呟いた。
祐巳はその人の命令に従ってリリアン女学園とは反対の方へまた走っていった。
それを見送ってヘアバンドをつけた女の人は溜め息をつく。
「さあ、これであなたの相手になってあげられるわね」
振り返った先にこの世のものとは思えない何かがいた。目を赤々と光らせて、手をまるで狼のように尖らせて、牙を吸血鬼のように突き出していた。
「かかってきなさい。私かあなたの命が尽きるまで。どうせ私たちに時間はたっぷりあるのだから」
そう言ってその人が手から蝶を出したところで祐巳は意識が遠のいていくのを感じて、目が覚めた。
祐巳が起き上がるとカーテンからは太陽の光が差し込んでいる。
「今の夢は一体なに?」
夢の中の祐巳はまだ三歳にもなっていないような小さい子供だった。だから祐巳が覚えていないのも仕方ないのかもしれないが、それが果たして夢だったのか記憶の再現だったのか分からなかった。
祐巳は胸を押さえた。
心臓が鳴っている。
だけど、この心臓の高鳴りは決して不快感を与えるような、そんな鼓動ではなかった。
静かに心の奥深くをくすぐるように鳴る鼓動はむしろ幸せにしてくれるような、そんな高鳴りだった。
次の日、桂さんや蔦子さんがリリアンの常識ということで山百合会のメンバーを教えてくれた。紅薔薇様に水野蓉子様、その蕾に小笠原祥子様。白薔薇様に佐藤聖様、その蕾に久保栞様。黄薔薇様に二年生の支倉令様、その妹に島津由乃さんの計六人で運営しているということだった。
「へー」
写真も見せてもらったが、夢に出てきた人ではなかった。
「そういえば蔦子さんは写真部だよね」
「そうだね」
「一杯写真撮ってるよね?」
「撮ってるね」
「それじゃあこの学校の中にヘアバンドつけている人っているか知ってる?」
どうしても夢の中に出てきた人のことが忘れられなかった。何か忘れてはいけないことを忘れてしまっているような感覚。
「ヘアバンド?」
んー、と蔦子さんは腕を組んで考えていたがやがてお手上げというように息を漏らした。
「知らないな。ヘアバンドをしているなんて珍しいから、いれば絶対に覚えてると思うんだけどね」
「そっか」
祐巳は自分で聞いておきながら納得していた。
あの夢で出てきた私の年齢はどう見ても物心つく前の年齢で三歳にも満たないころだろう。そんな時にこのリリアンの制服を着ていたのだから。
「あ」
そこまで思って祐巳は思いつく。
「ねえ、蔦子さん。十年以上前のリリアンの生徒の写真って残ってないかな」
「残ってないこともないけど、少ないよ?」
「見せてくれない?」
「それなら卒業写真にすればいいんじゃない?」
と、桂さんが提案した。
写真部の偏りが出ている写真より卒業した全ての学生が写っている卒業写真を見たほうが確実で手っ取り早い。
「そうだね」
卒業写真は図書室の貸し出し禁止の場所に置いてある。理由と使い道を書いた紙を出して承認されないとみれないのだが、そこは蔦子さんの裏ルートに頼って祐巳はどうにか、その日の放課後に図書室で卒業写真を見ることができた。
「んー」
一枚一枚ページをめくっていく。
もし、あの人が十三年前から十六年前の卒業アルバムに写っていればあの夢は祐巳の子供の頃の記憶だということになる。
時間をかけて一ページを隅から隅まで見回した。
「ふう」
そして、最後のページを見終えてパタンと卒業アルバムを閉じたころには辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
結局、あの人を卒業アルバムの中から見つけることはできなかった。
「うわー、早く帰らないとな」
独り言をいいながら祐巳が立ち上がったその時、
リン
鈴の音が鳴る。
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