藤堂祐巳
藤堂祐巳。祐巳と志摩子が双子の姉妹だったら、みたいな話。随分昔に書いていたもの。短め。マリア様がみてる新刊読みました。言いたいことはただ一つ。桂さんの出番があったことに泣けた。
祥子様にタイを直されたことを桂さんに話すと「なんだそんなこと」と桂さんは一笑して言った。
「忘れることね。スターは素人のことなんて覚えているものじゃないわ」
桂さんの言葉は図星だった分、祐巳の胸を容赦なく貫いた。そして、その一言に祐巳は安心すると同時に悲しいような矛盾した思いを抱いた。
「それに山百合会にまともに渡り合えるのなんてこのクラスじゃあの人だけでしょ」
そう言って桂さんが見る方向に目をやると志摩子が教室に入って来る所だった。
「完璧な美貌、そして性格」
祐巳は志摩子から視線を外した。
祐巳が志摩子の事を一瞬でも見ていたなんて思われたくなかったから。
「どうして、同じお腹からここまで違う子が生まれるのかしら?」
そして、桂さんは悪戯に笑って言うのだった。
「ねえ? 藤堂祐巳さん?」
祐巳と志摩子は双子の姉妹だった。生まれた早さで志摩子のほうがお姉さん。祐巳が逆子だったため、帝王切開で生まれた。なので祐巳と志摩子が生まれた時間なんて取り出されたのがどっちだったかそんなものだった。もっとも二卵生双生児だったため顔はあまり似ていなかったが、それにしても違いすぎだと祐巳は思っていた。
双子で生まれた筈なのに志摩子はいつだって完璧だった。
桂さんも言っていたけど容姿はフランス人形のような美しさで、テストではいつも上位にいる。最近では山百合会の手伝いを始めて、忙しそうにしているし、祐巳とはまったくと言っていいほど似ている部分がなかった。祐巳はと言うと顔も頭も平均点で……。
「桂さん、祐巳。ごきげんよう」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
志摩子は祐巳と桂さんに挨拶をすると優雅に自分の席に向かって行った。
「それよりお姉さんの話は聞いたの?」
桂さんは祐巳をからかうのを生きがいにでもしているかのように意地悪に笑う。
「何を?」
祐巳は問いかけるが桂さんはなかなか答えない。
「私、次の授業の予習まだしていないの。早く言ってくれないなら勉強がありますのでそろそろよろしいですか」
だから祐巳はわざとそんなこと言った。もちろん予習をやっていないなんてのは真っ赤な嘘だった。
「冗談よ。その様子じゃ聞いていないようね」
まるで祐巳が聞いていて当たり前といったような口調で桂さんは続けた。祐巳は嫌な予感がした。
「志摩子さんが二年生を取り越して白薔薇の蕾になったって言う話」
「それは昨日あなたから聞いたわ」
祐巳はそっけなく答える。
そう、志摩子が蕾になろうとなんになろうと祐巳には関係ないのだ。例え自分が平々凡々な人生であっても。
「だけどね、実は志摩子さん紅薔薇の蕾からもスールの申し出を受けていたんですって。そして、それを蹴って志摩子さんは白薔薇の受けたって言うことね」
「嘘」
「いいえ、残念だけど本当ね」
だとしたら志摩子が祐巳に言わないのも当然のことだといえた。志摩子は祐巳が祥子様のことを尊敬していることを知っていたからだ。
用するに祐巳は志摩子に同情されたのだった。
その志摩子の行為が祐巳には癇に障った。
(志摩子に同情される覚えなんかない。ふざけないでよ)
それは祐巳の志摩子に対するコンプレックスだった。その行為を祐巳は自分に対するあてつけのように感じてしまった。
「志摩子!」
気づいたら祐巳は志摩子の席まで行って叫んでいた。桂さんが余計なことを言ったと額に手を当てているが、そんなこと祐巳には関係なかった。
「どういうことよ」
「何のこと?」
「とぼけないでよ。祥子様のことよ」
祐巳の一言で志摩子の表情に陰がさす。思い当たる節があるのだろう。
「……あれは」
「言い訳なんかしないでよ」
教室にいた生徒はまたかと言わんばかりに遠巻きから眺めている。祐巳と志摩子の喧嘩なんてむしろ日常茶飯事のことだったからあまり今更一々騒いだりはしないのだ。
「同情したつもりかもしれないけど、余計なそんなの余計なお世話よ!」
祐巳の追い詰めるようなその一言に今まで黙っていた志摩子が声を上げた。
「ならどうしろって言うの? 祐巳に祥子様からスールの申し出を受けたのだけれど、どうすればいいかって聞けば良かった? どっちにしても怒るくせに。私のことなんか認めてないくせに」
「それは志摩子でしょう」
二人とも熱くなってきたところで二人の間に蔦子が仲介に入った。だいたい二人の喧嘩を止める役目は蔦子だった。
「ほらほら、二人ともみんなが驚いているから。それにそろそろ授業も始まるし、ね? 続きがやりたいならまた別な場所を設けてやりなさい」
その言葉で志摩子も祐巳も冷静さを取り戻す。
「ごめんなさい」
「ごめん」
互いに謝罪を交わしているわけではなかった。あくまで喧嘩を止めてくれた蔦子に対して謝っているのだった。
「まあ、私はいいんだけどね」
祐巳と志摩子は目を合わせると視線だけで何かを言い合っていた。
「以心伝心なのはいいことだけど、それで喧嘩をしないでよね」
蔦子は半ば呆れるように言った。
「忘れることね。スターは素人のことなんて覚えているものじゃないわ」
桂さんの言葉は図星だった分、祐巳の胸を容赦なく貫いた。そして、その一言に祐巳は安心すると同時に悲しいような矛盾した思いを抱いた。
「それに山百合会にまともに渡り合えるのなんてこのクラスじゃあの人だけでしょ」
そう言って桂さんが見る方向に目をやると志摩子が教室に入って来る所だった。
「完璧な美貌、そして性格」
祐巳は志摩子から視線を外した。
祐巳が志摩子の事を一瞬でも見ていたなんて思われたくなかったから。
「どうして、同じお腹からここまで違う子が生まれるのかしら?」
そして、桂さんは悪戯に笑って言うのだった。
「ねえ? 藤堂祐巳さん?」
祐巳と志摩子は双子の姉妹だった。生まれた早さで志摩子のほうがお姉さん。祐巳が逆子だったため、帝王切開で生まれた。なので祐巳と志摩子が生まれた時間なんて取り出されたのがどっちだったかそんなものだった。もっとも二卵生双生児だったため顔はあまり似ていなかったが、それにしても違いすぎだと祐巳は思っていた。
双子で生まれた筈なのに志摩子はいつだって完璧だった。
桂さんも言っていたけど容姿はフランス人形のような美しさで、テストではいつも上位にいる。最近では山百合会の手伝いを始めて、忙しそうにしているし、祐巳とはまったくと言っていいほど似ている部分がなかった。祐巳はと言うと顔も頭も平均点で……。
「桂さん、祐巳。ごきげんよう」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
志摩子は祐巳と桂さんに挨拶をすると優雅に自分の席に向かって行った。
「それよりお姉さんの話は聞いたの?」
桂さんは祐巳をからかうのを生きがいにでもしているかのように意地悪に笑う。
「何を?」
祐巳は問いかけるが桂さんはなかなか答えない。
「私、次の授業の予習まだしていないの。早く言ってくれないなら勉強がありますのでそろそろよろしいですか」
だから祐巳はわざとそんなこと言った。もちろん予習をやっていないなんてのは真っ赤な嘘だった。
「冗談よ。その様子じゃ聞いていないようね」
まるで祐巳が聞いていて当たり前といったような口調で桂さんは続けた。祐巳は嫌な予感がした。
「志摩子さんが二年生を取り越して白薔薇の蕾になったって言う話」
「それは昨日あなたから聞いたわ」
祐巳はそっけなく答える。
そう、志摩子が蕾になろうとなんになろうと祐巳には関係ないのだ。例え自分が平々凡々な人生であっても。
「だけどね、実は志摩子さん紅薔薇の蕾からもスールの申し出を受けていたんですって。そして、それを蹴って志摩子さんは白薔薇の受けたって言うことね」
「嘘」
「いいえ、残念だけど本当ね」
だとしたら志摩子が祐巳に言わないのも当然のことだといえた。志摩子は祐巳が祥子様のことを尊敬していることを知っていたからだ。
用するに祐巳は志摩子に同情されたのだった。
その志摩子の行為が祐巳には癇に障った。
(志摩子に同情される覚えなんかない。ふざけないでよ)
それは祐巳の志摩子に対するコンプレックスだった。その行為を祐巳は自分に対するあてつけのように感じてしまった。
「志摩子!」
気づいたら祐巳は志摩子の席まで行って叫んでいた。桂さんが余計なことを言ったと額に手を当てているが、そんなこと祐巳には関係なかった。
「どういうことよ」
「何のこと?」
「とぼけないでよ。祥子様のことよ」
祐巳の一言で志摩子の表情に陰がさす。思い当たる節があるのだろう。
「……あれは」
「言い訳なんかしないでよ」
教室にいた生徒はまたかと言わんばかりに遠巻きから眺めている。祐巳と志摩子の喧嘩なんてむしろ日常茶飯事のことだったからあまり今更一々騒いだりはしないのだ。
「同情したつもりかもしれないけど、余計なそんなの余計なお世話よ!」
祐巳の追い詰めるようなその一言に今まで黙っていた志摩子が声を上げた。
「ならどうしろって言うの? 祐巳に祥子様からスールの申し出を受けたのだけれど、どうすればいいかって聞けば良かった? どっちにしても怒るくせに。私のことなんか認めてないくせに」
「それは志摩子でしょう」
二人とも熱くなってきたところで二人の間に蔦子が仲介に入った。だいたい二人の喧嘩を止める役目は蔦子だった。
「ほらほら、二人ともみんなが驚いているから。それにそろそろ授業も始まるし、ね? 続きがやりたいならまた別な場所を設けてやりなさい」
その言葉で志摩子も祐巳も冷静さを取り戻す。
「ごめんなさい」
「ごめん」
互いに謝罪を交わしているわけではなかった。あくまで喧嘩を止めてくれた蔦子に対して謝っているのだった。
「まあ、私はいいんだけどね」
祐巳と志摩子は目を合わせると視線だけで何かを言い合っていた。
「以心伝心なのはいいことだけど、それで喧嘩をしないでよね」
蔦子は半ば呆れるように言った。
スポンサーサイト
コメント
No title
桂さんのセリフが合った事にも感動しました。
No title
なんか桂さんがスネ夫ちっくでイヤミな感じ(笑)
普通の女子高生っぽくて「スター発言」の桂さんっぽいといえばそのとおりですが。
この祐巳は志摩子に対するコンプレックスが強そうで、
原作どおり天真爛漫って感じじゃないですね。
となると、祥子が劇を降りたいがために利用されたと知った時のリアクションとか
どう反応するのか興味がありますね。
続き希望!
普通の女子高生っぽくて「スター発言」の桂さんっぽいといえばそのとおりですが。
この祐巳は志摩子に対するコンプレックスが強そうで、
原作どおり天真爛漫って感じじゃないですね。
となると、祥子が劇を降りたいがために利用されたと知った時のリアクションとか
どう反応するのか興味がありますね。
続き希望!
No title
コメントありがとうございました。
>こうめさん
ですねー。桂さんのお姉さまも健気でよかった。
>kouさん
今回の桂さんのスター発言は祐巳を慰めているというよりおちょくってる感じなのでイヤミになってしまったのかも?
完璧すぎる姉はやはりコンプレックスになりますね。原作の祐麒ですら祐巳に焦りを感じるくらいですから。
>こうめさん
ですねー。桂さんのお姉さまも健気でよかった。
>kouさん
今回の桂さんのスター発言は祐巳を慰めているというよりおちょくってる感じなのでイヤミになってしまったのかも?
完璧すぎる姉はやはりコンプレックスになりますね。原作の祐麒ですら祐巳に焦りを感じるくらいですから。
コメントの投稿
« 藤堂祐巳 l Home l 苗字がないのよ、桂さん »