魔法の手
拍手&コメントありがとうございます。
今回も「魔法の手」の続きになります。
例えば江利子が令に出会っていなかったら、
例えば祥子が祐巳のタイを直していなかったら、
そして、江利子と祐巳が出会ってしまったら、
そんな話。
今回も「魔法の手」の続きになります。
例えば江利子が令に出会っていなかったら、
例えば祥子が祐巳のタイを直していなかったら、
そして、江利子と祐巳が出会ってしまったら、
そんな話。
「はい」
手渡されたのは一冊の冊子だった。簡単に閉じてあるけどちゃんとワープロ打ちされている。
どうやらシンデレラの台本みたいだった。
「蛍光ペンでブルーの印を打っておいたから」
「から?」
「覚えるに決まってるでしょう?」
祥子様は呆れるように息をついた。
パラパラとめくってみると姉Bと書かれている場所にブルーの印が打ってあった。私の知らない間に姉Bを割り当てられてしまったらしい。
「それにしても、なぜこんなところでお昼を食べているの?」
あれ以来、お昼休みに教室にいるのは最早自殺行為といっていいくらいになってしまった。新聞部は取材に来るわ、興味本位の子羊たちが群れをなして大挙するわ。命がいくつあってもたりない。
そんな時に志摩子さんが自分がお昼を食べている場所を教えてくれたのだった。
「それには深いようで浅い事情がありまして」
蔦子さんが説明すると祥子様は「ふうん」と興味なさげに呟いた。
「祐巳、ロザリオを受け取りなさい。そうすれば新聞部の取材は私が受けてあげる」
「ご冗談を」
「そ? その気になったいつでもどうぞ」
祥子様は笑っていってしまった。
「あ」
その後思い出したように蔦子さんが声を上げた。
「そういえば黄薔薇様に写真の許可まだ貰ってないや、祐巳さん」
「蔦子さんはそればっかりだね」
「命かけてますから」
私たちのそんなやり取りを志摩子さんは微笑を浮かべながらまるでマリア様のように見ていた。
私が薔薇の館に行くと江利子様だけが端っこの椅子に座って何か考え事をしていた。
「江利子様、お一人ですか?」
「そうね。それとも祐巳には透明人間でも見えるの?」
「江利子さま、私をからかって楽しいですか?」
見れば一人でいることくらい分かるのだけど、江利子様は私をからかって楽しんでいる節があった。
「ええ、とても」
江利子様があまりにも満足そうに笑うもんだから私も何も言えなかった。
「そういえば江利子様のタイって綺麗ですよね」
なんの気なし言った言葉だったが、意外に江利子様は驚いた顔をされていた。
「タイね。こんなもの綺麗でもどうしようもないのだけどね」
「そうですか? 私は綺麗なタイの方がいいと思いますよ」
「そう?」
「はい」
何一つ偽りのない言葉だった。だけどもうこの時点で私は江利子様に誘導されていたんだと思う。
「なら祐巳ちゃんのタイも直してあげようか?」
「えっ? 私のはいいですよ」
「でも綺麗なタイのほうがいいんでしょ?」
そう言われてしまったら私も断ることが出来ない。私は釈然としない気持ちを抱えながらも江利子様のもとへ歩いていった。
「屈んで」
言われたとおりに屈むと江利子様は私の首の後ろに手を回してタイを解いた。
「もしこの場面を祥子に見られたら、私はいったい何をしてるように見えるのかしら」
ふふ、と悪戯に笑う江利子様は魅力的だった。
「ご冗談を」
「冗談なものですか」
丁度そのときビスケット扉がギィと開いた。私は驚いて後ろを振り向く。
「お、祐巳ちゃん。来てたんだ。えらい、えらい」
入ってきたのは聖様だった。あ、と思ったときにはすでに遅く、後ろで江利子様はお腹を抱えて笑っていた。
「江利子さま!」
「ごめん、ごめん。ほら座って結んであげるから」
タイを伸ばして首にかける。その動作が流れるようにしなやかでこんな人が結ぶタイならそれはきれいになるだろうな、と思った。
綺麗に結ばれたタイが私の胸に収まっていることに軽い驚きを覚えながらも、他人に結んでもらったという気恥ずかしさからかなぜか落ち着かない気持ちになった。
浮き足立ってフワフワするようなそんな気持ち。
「江利子はね、どんなことをやらせても何でもできちゃうんだよ、祐巳ちゃんはそういうのどう思う?」
私たちの様子を見ていた聖様が唐突にそんな話を切り出した。
「ちょっとやめてよ、聖」
江利子様は嫌がっていたが聖様は話すのをやめようとしなかった。
「うらやましい……ですけど?」
何でも平凡にできる私にしてみればそれは凄いことのように思えたし、実際すごいことだろう。
「でもね、江利子は何でもできすぎちゃうおかげで、何をやっても結果が読めちゃうんだ。だからいつもやる気のなさそうな顔をしてる」
本人にしてみれば辛いんだろうね、と本人を目の前にして聖様は言った。
「だけどそんなところに現れたのが君さ、祐巳ちゃん。面白くないからって理由で今まで妹も作らなかった江利子がなんと君を妹にしようとやる気を出している。その証拠に今日新聞にわざわざ出向いて祐巳ちゃんに取材しないように頼みに言ってたからね」
「え」
私が振り返ると江利子様は「聖の馬鹿」と呟いて聖様のことを睨んでいた。
「何で言ってくださらなかったんですか?」
「だってカッコわるいじゃない」
少なくとも今の江利子様を私はカッコわるいとは思わなかった。むしろ意外な一面が見れて嬉しかったくらいだ。
「楽しそうですね」
志摩子さんと栞様がやってきて、その後蓉子様、祥子様の順にきて全員揃ったところで通し稽古を始めることになった。
その後、衣装合わせなどをして練習が終わった。
手渡されたのは一冊の冊子だった。簡単に閉じてあるけどちゃんとワープロ打ちされている。
どうやらシンデレラの台本みたいだった。
「蛍光ペンでブルーの印を打っておいたから」
「から?」
「覚えるに決まってるでしょう?」
祥子様は呆れるように息をついた。
パラパラとめくってみると姉Bと書かれている場所にブルーの印が打ってあった。私の知らない間に姉Bを割り当てられてしまったらしい。
「それにしても、なぜこんなところでお昼を食べているの?」
あれ以来、お昼休みに教室にいるのは最早自殺行為といっていいくらいになってしまった。新聞部は取材に来るわ、興味本位の子羊たちが群れをなして大挙するわ。命がいくつあってもたりない。
そんな時に志摩子さんが自分がお昼を食べている場所を教えてくれたのだった。
「それには深いようで浅い事情がありまして」
蔦子さんが説明すると祥子様は「ふうん」と興味なさげに呟いた。
「祐巳、ロザリオを受け取りなさい。そうすれば新聞部の取材は私が受けてあげる」
「ご冗談を」
「そ? その気になったいつでもどうぞ」
祥子様は笑っていってしまった。
「あ」
その後思い出したように蔦子さんが声を上げた。
「そういえば黄薔薇様に写真の許可まだ貰ってないや、祐巳さん」
「蔦子さんはそればっかりだね」
「命かけてますから」
私たちのそんなやり取りを志摩子さんは微笑を浮かべながらまるでマリア様のように見ていた。
私が薔薇の館に行くと江利子様だけが端っこの椅子に座って何か考え事をしていた。
「江利子様、お一人ですか?」
「そうね。それとも祐巳には透明人間でも見えるの?」
「江利子さま、私をからかって楽しいですか?」
見れば一人でいることくらい分かるのだけど、江利子様は私をからかって楽しんでいる節があった。
「ええ、とても」
江利子様があまりにも満足そうに笑うもんだから私も何も言えなかった。
「そういえば江利子様のタイって綺麗ですよね」
なんの気なし言った言葉だったが、意外に江利子様は驚いた顔をされていた。
「タイね。こんなもの綺麗でもどうしようもないのだけどね」
「そうですか? 私は綺麗なタイの方がいいと思いますよ」
「そう?」
「はい」
何一つ偽りのない言葉だった。だけどもうこの時点で私は江利子様に誘導されていたんだと思う。
「なら祐巳ちゃんのタイも直してあげようか?」
「えっ? 私のはいいですよ」
「でも綺麗なタイのほうがいいんでしょ?」
そう言われてしまったら私も断ることが出来ない。私は釈然としない気持ちを抱えながらも江利子様のもとへ歩いていった。
「屈んで」
言われたとおりに屈むと江利子様は私の首の後ろに手を回してタイを解いた。
「もしこの場面を祥子に見られたら、私はいったい何をしてるように見えるのかしら」
ふふ、と悪戯に笑う江利子様は魅力的だった。
「ご冗談を」
「冗談なものですか」
丁度そのときビスケット扉がギィと開いた。私は驚いて後ろを振り向く。
「お、祐巳ちゃん。来てたんだ。えらい、えらい」
入ってきたのは聖様だった。あ、と思ったときにはすでに遅く、後ろで江利子様はお腹を抱えて笑っていた。
「江利子さま!」
「ごめん、ごめん。ほら座って結んであげるから」
タイを伸ばして首にかける。その動作が流れるようにしなやかでこんな人が結ぶタイならそれはきれいになるだろうな、と思った。
綺麗に結ばれたタイが私の胸に収まっていることに軽い驚きを覚えながらも、他人に結んでもらったという気恥ずかしさからかなぜか落ち着かない気持ちになった。
浮き足立ってフワフワするようなそんな気持ち。
「江利子はね、どんなことをやらせても何でもできちゃうんだよ、祐巳ちゃんはそういうのどう思う?」
私たちの様子を見ていた聖様が唐突にそんな話を切り出した。
「ちょっとやめてよ、聖」
江利子様は嫌がっていたが聖様は話すのをやめようとしなかった。
「うらやましい……ですけど?」
何でも平凡にできる私にしてみればそれは凄いことのように思えたし、実際すごいことだろう。
「でもね、江利子は何でもできすぎちゃうおかげで、何をやっても結果が読めちゃうんだ。だからいつもやる気のなさそうな顔をしてる」
本人にしてみれば辛いんだろうね、と本人を目の前にして聖様は言った。
「だけどそんなところに現れたのが君さ、祐巳ちゃん。面白くないからって理由で今まで妹も作らなかった江利子がなんと君を妹にしようとやる気を出している。その証拠に今日新聞にわざわざ出向いて祐巳ちゃんに取材しないように頼みに言ってたからね」
「え」
私が振り返ると江利子様は「聖の馬鹿」と呟いて聖様のことを睨んでいた。
「何で言ってくださらなかったんですか?」
「だってカッコわるいじゃない」
少なくとも今の江利子様を私はカッコわるいとは思わなかった。むしろ意外な一面が見れて嬉しかったくらいだ。
「楽しそうですね」
志摩子さんと栞様がやってきて、その後蓉子様、祥子様の順にきて全員揃ったところで通し稽古を始めることになった。
その後、衣装合わせなどをして練習が終わった。
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