魔法の手
拍手&コメントありがとうございます。
今回も「魔法の手」の続きになります。今日は「マリア様がみてる~秋のリリアン祭~」が行われてるみたいですね。アニメ四期の情報などは出るのかな? アニメはとりあえず江利子様が出てきてくれればいいや。
例えば江利子が令に出会っていなかったら、
例えば祥子が祐巳のタイを直していなかったら、
そして、江利子と祐巳が出会ってしまったら、
そんな話。
今回も「魔法の手」の続きになります。今日は「マリア様がみてる~秋のリリアン祭~」が行われてるみたいですね。アニメ四期の情報などは出るのかな? アニメはとりあえず江利子様が出てきてくれればいいや。
例えば江利子が令に出会っていなかったら、
例えば祥子が祐巳のタイを直していなかったら、
そして、江利子と祐巳が出会ってしまったら、
そんな話。
祐巳を迎えに音楽室に行ってみれば、そこでは祥子と祐巳が楽しいそうに連弾をしているところだった。初めのうちはただ聞いていたのだけど、あまりに二人の様子が自然に思えてきて気づけば私は声をかけていた。
心の底に沈むような重いもやが取れなかった。
その感情が何なのか私に分からない。
「さっきから浮かない顔してどうしたの?」
「別に」
蓉子の問いに私はそっけなく答える。
今はダンスの練習をしていて祥子と聖が中心で踊っていた。私はダンス曲のカセットの入れ替えをしながら、祐巳のほうを見ると祐巳は真っ直ぐ祥子のほうを見つめていた。
また、自分でも制御できない感覚が自分の内で大きくなるのを感じた。
どす黒い感覚。
「江利子、もしかして祥子に嫉妬してるの?」
「え?」
「しょうがないでしょ。祐巳ちゃんは祥子のファンだって言うんだから」
「嫉妬?」
「ええ、そうよ。あなたもしかして分かってなかったの?」
これが嫉妬だというのか。
蓉子に言われるまで私の抱いていた感情の正体がまるで分からなかった。だって私は一度だって他人にそんな感情を抱いたことはなかったのだから。
「ふふ」
そうと分かるとなぜだか急に笑いが込み上げてきて止めることができなかった。
そうか私は祥子に嫉妬していたんだ。それは本来望ましい出来事でないはずなのに、私は自分が他人に嫉妬をしているということを心のどこかで喜んでいた。
「どうしたの?」
蓉子が心配そうに聞いてきたが、私はそれを無視してただ笑った。
「江利子、少し変よ」
それだけ言い残すと蓉子は舞台に立ったときのことを想定して、最初の立ち位置や体の向きを指示し始めた。私と喋っていても見るべきところは見てるからさすがというしかない。
私は立ち上がって一人で壁に寄り添っている祐巳のところへ歩いていった。多分、こんなに積極的になったのは、自分に対する自分の評価が変わってきたからだろうか。嫉妬をしたことがなかった私が嫉妬をし、他人に惹かれたことのなかった私が祐巳に惹かれている。
こんなにも自分というものは簡単に変わるのだろうか。
ここ数日の出来事は私を少なからず驚かせていた。
だからこそ、私を変えている原因になっている祐巳のことをもっと知りたいと思うようになっていた。
「ダンスの経験は?」
「い、いいえ。全然」
予想していた通り祐巳ちゃんは首を横に振った。
リリアンでダンスを教えるのは二年生になってからだし、そうでもないと祥子みたいな相当なお嬢様でないと踊れる子なんていないだろう。
「じゃあ、教えてあげようか。手、出して」
手を取ろうかどうか迷っている祐巳をいつかの朝のように私は無理やりとって抱き寄せた。
「ほら」
「はい」
「ワルツだから三拍子ね、一、二、三、一、二、三」
掛け声に合わせてリズムを刻む。
祐巳はダンスをやったことがない割りに踊れていた。たまに足を踏むことがあったり、下を向いたりするが。
「意外に上手じゃない」
「多分、江利子様の教え方が上手だからですよ」
祐巳はそう言って笑うと何かに気づいたように足を止めた。周りで奇異の視線を私たちに向けている生徒が奇妙なものを見るように私たちを見ていた。
まずい、そう思ったときにはすでに遅かった。
「すみません」
その視線に祐巳が耐えられるわけもなく、私の手を離すと祐巳は頭を下げて「忘れ物があるから今日は帰ります」と出て行ってしまった。
「江利子らしくないミスだね。まさか気づかなかったわけじゃないでしょ?」
そりゃ、今話題の渦中にいる人間がダンスを一緒に踊っていれば、そうなることくらい私にも予想はできたが。
あまりにも嬉しくて気づかなかったなんて言えなかった。
口が裂けても聖だけには。
ドアを二回叩く。
「はい」
中から声が聞こえてくるのを確認してから私は中に入った。三奈子さんが部長になってから山百合会は何度ここに足を運んだか分からない。いつもは苦労をかける側のわたしだが、この人には苦労させられている。
「ごきげんよう。少しお話いいかしら?」
「もちろんです」
私は椅子に腰をかける。
「今日はどういったご用件で?」
「福沢祐巳って子に余計な取材をしないでほしいの」
「余計? 余計とはどういうことですか? 今、学園の話題はあなたとそして紅薔薇様の蕾、そしてその福沢祐巳さんなんですよ?」
重箱の隅をつつくような反論に嫌気がさしながらも私は答える。
「あなた達の取材はやりすぎだって言ってるの」
「そうですか。黄薔薇様の言い分は分かりました。でも私たちもだからと言ってああそうですか、と引き下がれるわけではないんです」
もちろん三奈子さんがそう簡単に引き下がるとは思っていなかった。だから私もカードを用意してきたわけだ。
「もし祐巳に取材を続けるつもりなら、私はこれから新聞部の取材に一切答えない。だけどもし止めてくれるなら、私が話せる範囲のことを話してもいい」
「報道協定というわけですね。では、その取材した内容はいつ発表していいんですか?」
「文化祭後よ」
これで三奈子さんが大人しくなるとは思えなかったが、やらないよりはマシだろう。何より祐巳に取材が行かなくなればそれでいい。
「それにしても不思議ですね」
「どういう意味?」
「いえ。他人に興味のないことで有名な黄薔薇様が一生徒のためにこれだけなされるなんて。しかも黄薔薇様の心を射止めている相手が平凡を絵に書いたような祐巳さんというのがなお面白いですね」
「さあ?」
話は終わりだったので私はさっさと椅子を立って部室を出ることにした。用もないのに三奈子さんと顔を突き合わせているほどヒマじゃないのだ。
「私の取材はいつでも受けるわ」
部室を出るときに忘れ物のようにそれだけ言い残しておいた。
心の底に沈むような重いもやが取れなかった。
その感情が何なのか私に分からない。
「さっきから浮かない顔してどうしたの?」
「別に」
蓉子の問いに私はそっけなく答える。
今はダンスの練習をしていて祥子と聖が中心で踊っていた。私はダンス曲のカセットの入れ替えをしながら、祐巳のほうを見ると祐巳は真っ直ぐ祥子のほうを見つめていた。
また、自分でも制御できない感覚が自分の内で大きくなるのを感じた。
どす黒い感覚。
「江利子、もしかして祥子に嫉妬してるの?」
「え?」
「しょうがないでしょ。祐巳ちゃんは祥子のファンだって言うんだから」
「嫉妬?」
「ええ、そうよ。あなたもしかして分かってなかったの?」
これが嫉妬だというのか。
蓉子に言われるまで私の抱いていた感情の正体がまるで分からなかった。だって私は一度だって他人にそんな感情を抱いたことはなかったのだから。
「ふふ」
そうと分かるとなぜだか急に笑いが込み上げてきて止めることができなかった。
そうか私は祥子に嫉妬していたんだ。それは本来望ましい出来事でないはずなのに、私は自分が他人に嫉妬をしているということを心のどこかで喜んでいた。
「どうしたの?」
蓉子が心配そうに聞いてきたが、私はそれを無視してただ笑った。
「江利子、少し変よ」
それだけ言い残すと蓉子は舞台に立ったときのことを想定して、最初の立ち位置や体の向きを指示し始めた。私と喋っていても見るべきところは見てるからさすがというしかない。
私は立ち上がって一人で壁に寄り添っている祐巳のところへ歩いていった。多分、こんなに積極的になったのは、自分に対する自分の評価が変わってきたからだろうか。嫉妬をしたことがなかった私が嫉妬をし、他人に惹かれたことのなかった私が祐巳に惹かれている。
こんなにも自分というものは簡単に変わるのだろうか。
ここ数日の出来事は私を少なからず驚かせていた。
だからこそ、私を変えている原因になっている祐巳のことをもっと知りたいと思うようになっていた。
「ダンスの経験は?」
「い、いいえ。全然」
予想していた通り祐巳ちゃんは首を横に振った。
リリアンでダンスを教えるのは二年生になってからだし、そうでもないと祥子みたいな相当なお嬢様でないと踊れる子なんていないだろう。
「じゃあ、教えてあげようか。手、出して」
手を取ろうかどうか迷っている祐巳をいつかの朝のように私は無理やりとって抱き寄せた。
「ほら」
「はい」
「ワルツだから三拍子ね、一、二、三、一、二、三」
掛け声に合わせてリズムを刻む。
祐巳はダンスをやったことがない割りに踊れていた。たまに足を踏むことがあったり、下を向いたりするが。
「意外に上手じゃない」
「多分、江利子様の教え方が上手だからですよ」
祐巳はそう言って笑うと何かに気づいたように足を止めた。周りで奇異の視線を私たちに向けている生徒が奇妙なものを見るように私たちを見ていた。
まずい、そう思ったときにはすでに遅かった。
「すみません」
その視線に祐巳が耐えられるわけもなく、私の手を離すと祐巳は頭を下げて「忘れ物があるから今日は帰ります」と出て行ってしまった。
「江利子らしくないミスだね。まさか気づかなかったわけじゃないでしょ?」
そりゃ、今話題の渦中にいる人間がダンスを一緒に踊っていれば、そうなることくらい私にも予想はできたが。
あまりにも嬉しくて気づかなかったなんて言えなかった。
口が裂けても聖だけには。
ドアを二回叩く。
「はい」
中から声が聞こえてくるのを確認してから私は中に入った。三奈子さんが部長になってから山百合会は何度ここに足を運んだか分からない。いつもは苦労をかける側のわたしだが、この人には苦労させられている。
「ごきげんよう。少しお話いいかしら?」
「もちろんです」
私は椅子に腰をかける。
「今日はどういったご用件で?」
「福沢祐巳って子に余計な取材をしないでほしいの」
「余計? 余計とはどういうことですか? 今、学園の話題はあなたとそして紅薔薇様の蕾、そしてその福沢祐巳さんなんですよ?」
重箱の隅をつつくような反論に嫌気がさしながらも私は答える。
「あなた達の取材はやりすぎだって言ってるの」
「そうですか。黄薔薇様の言い分は分かりました。でも私たちもだからと言ってああそうですか、と引き下がれるわけではないんです」
もちろん三奈子さんがそう簡単に引き下がるとは思っていなかった。だから私もカードを用意してきたわけだ。
「もし祐巳に取材を続けるつもりなら、私はこれから新聞部の取材に一切答えない。だけどもし止めてくれるなら、私が話せる範囲のことを話してもいい」
「報道協定というわけですね。では、その取材した内容はいつ発表していいんですか?」
「文化祭後よ」
これで三奈子さんが大人しくなるとは思えなかったが、やらないよりはマシだろう。何より祐巳に取材が行かなくなればそれでいい。
「それにしても不思議ですね」
「どういう意味?」
「いえ。他人に興味のないことで有名な黄薔薇様が一生徒のためにこれだけなされるなんて。しかも黄薔薇様の心を射止めている相手が平凡を絵に書いたような祐巳さんというのがなお面白いですね」
「さあ?」
話は終わりだったので私はさっさと椅子を立って部室を出ることにした。用もないのに三奈子さんと顔を突き合わせているほどヒマじゃないのだ。
「私の取材はいつでも受けるわ」
部室を出るときに忘れ物のようにそれだけ言い残しておいた。
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